付記

後日談

編者注:本稿は天京院光昭氏がその死の直前まで執筆していたものです。未完成に終わったものですが、猫ヶ原以降を知る上では重要な資料となっています。


 この後、東西の中心人物の運命は対象的でした。

 ルッグは山中に木こりとして変装しながら潜伏していましたが、つかまり処刑されました。喉の渇きにくだもののカキを勧められて、

「タンの毒である」

と、拒否したという話が残されています。その発言を聞いた者たちはなおも生きたいかと笑いましたが、むしろなお生きて目的を果たそうとしたと考えた方が良いでしょう。

 一方の天京院春見は、ワカツ討伐や、小早川・井之原といった勢力への対処に1年をついやし、自分の地位の安定化を計っていました。それを見て、今まで様子を見ていた帝もようやく動き、近臣の柏木かしわぎさきひさをつかわし、宰相に任じたことを伝えました。

 そのとき、猫ヶ原の決戦から1年たったことに気づいた家臣が、雨が降りだしたのを見て

「去年の今日は血戦の日、雨が降っていましたが、今日も雨降りでございますな」

と思い出したように言うと、春見は

「ははは、たしかにそうじゃな」

と、笑いながら返すのでした。。


 天京院春見の宰相在任期間は1年半ですが、戦後処理と次代への足場固めという地味な時期だったためか、その間は歴史的に語るエピソードは皆無です。強いて言えば、タケゾウとガンリュウという者たちが決闘したというハナシくらいでしょうか。

「ガンリュウ敗れたりにゃっ!!!」

「にゃにを!!!」

 いう感じの言い合いをしたのち、ウィンウィーンという駆動音を響かせながら突進してきた強化装甲で頭以外を包んだガンリュウに、足のみ強化装甲をつけたタケゾウが

「えにゃっ!!!」

と、叫びながらピョン!とものすごい跳躍ジャンプをして、そのままガンリュウの唯一生身である頭を木刀で叩き割りました。

 歴史的にはさして重要な事件ではありませんが、この時期に語られるエピソードが、これしかないくらい平和だったということでしょう。


 しかしながら、平和というのはあくまで帝国という国家の話であって、天京院家にはある重大な出来事がありました。

「隠し子ですと?」

「しっ、静かに。メイドとちょっとあってな……」

「はあ、奥様にかくれて、そんなことを」

「でだ、誰も知られることなく、この子を育てたいのだが」

「わかりました、なんとかしましょう」

と、そういう会話があったかはわかりませんが、この天京院秋忠の火遊びで生まれた子供は、母とともに共和国との国境にある森に住むテニッシュというものに預けられました。

 その子供は秋忠によって『幸央さちお』ちと名付けられ、やがて帝国で重要人物となっていきますが、本稿の範囲を外れてしまうので、詳細は略します。

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帝国内乱~決戦の長い1日~ 今村広樹 @yono

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