【番外編】 side モラ

 おひさまのひかりに そのビンは きらきら ほしみたいに ひかっていた。ぼくは りょうてで ビンをにぎると なかで ゆれる おくすりを みつめた。


 ウツボのおばばは これが ほれぐすり だって いってた。「ほれぐすりって なぁに?」って きいたら「飲むと、最初に見た相手のことを好きになる薬だよ」って おしえてくれた。


 ほんとう?

 これを のんで さいしょに ぼくをみたら オーガスト ぼくのこと すきになってくれる?


「おい、テルモ! 例のヤツ、俺にも一杯くれ!」


 りんとしたこえに ふりかえれば オーガストが シャツの くびを ゆるめながら かんぱんから ちょうりばに おりてくる ところだった。


「なんだよ、テルモの奴いねぇのか……おいモラ、テルモかミスト見なかったか?」


 ぼくが ぷるぷると くびを よこにふると オーガストは まえがみを かきあげて みじかく したうちした。


「ンだよ、珍しい酒が手に入ったって誘ったのはあいつの方じゃねぇかよ」


 つぶやいて オーグは ふと ぼくをみて ぼくの もってた ビンに めをとめた。


「ん? モラ、なんだそりゃ」

「あの あの これ オーガストに のませろって いわれて」

「なんだよ、用意してあるんじゃねーか」


 いうなり オーガストは ぼくのてから ビンを ぱしっと うばいとって てばやく ガラスの ふたを あけた。それから その おくすりを くーっと いっきに のみほした。


「……ック、なんだこりゃ。随分変わった味だな。南方じゃこんなモンが流行ってんのかぁ?」


 どうしよう どうしよう オーガスト のんじゃった!


 ぼくが おろおろ していたら オーガストが めを ぱちりとさせて ぼくを みおろした。


 オーグ オーグ おくすり きいた?

 ぼくのこと すきに なってくれた?


 どきどきして オーガストの めを みつめていたら オーガストが まゆのあいだに かるく しわをよせた。


「なんだ? モラ。俺に何か用か?」


 あれ?


 あれれ?


「いつもの オーグだ」

「小瓶一本ぐらいで酔っ払うかよ。おら、甲板戻るぞ! 床板がずいぶん乾いてきちまってたからな、お前はまた甲板掃除だ」


 いいながら オーガストは ぼくの かたを ポンと たたいた。

 へんなの。おばばの おくすりは いつも とっても よくきくのに こんかいは こうかが ないみたい。オーグは どこからみても いつもどおりで ぼくは ちょっとがっかりして だけど とっても ほっとした。


 あれ?

『いつもどおり』?


 ひょっとして もしかして オーグ いつも ぼくをすきで いてくれた?

 それが オーグの いつもどおりなの?


 ぼくは あわてて くすりびんを てにとると そこにのこった なんてきかを くちのなかに たらしてみた。あまくて にがい。むねのなか ほわっと あったかいものが とおりすぎる。ぼくは ぱちぱちと まばたきすると オーガストを じっとみた。


 かわんないや。

 ぼくも いつもどおりだ。


「なんだモラ、お前もその酒飲みたかったのか?」


 ぼくが ぷるぷると くびをふると オーガストは ちょっと へんなかおをして それから ちょうりばを あとにした。ぼくも あわてて そのうしろに ついていくと オーガストの ひろくて たかい せなかを みあげた。


 ちょっと らんぼうで とっても かっこよくって こわいものしらずで やさしくて。ぼくは そのせなかを いつでも おいかけてて。

 いつものオーグ いつものぼく。いつも いつまでも。


「オーグ オーグ あのね」


 オーガストの せなかに こえをかけると かいだんを のぼりながら オーガストが ちょっとだけ こっちを みた。


「ぼく オーグが だいすきだよ」


 ぼくが そういうと オーガストは ふっと わらって くるり ぼくに ふりむいた。そうして かたを だきよせると ちゅっと かるく キスをした。

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