第3話 いつもの オーガスト

「モラ」



やさしい やさしい こえ。

かみのけを ふんわり すいてくれる やさしい ゆび。



「モラ」



もういちど よばれて ぼくは そおっと めをあけた。カンテラの ちいさな あかりにてらされた オーガストの かおが みえる。どうしたの オーグ どうして そんな なきそうなかお してるの?


「大丈夫か、モラ」


だいじょうぶって なにが?


「痛くないか?」

「いたい」


こたえると オーガストは おろおろした こえを だした。


「どこだ、どこが痛い?」

「おしりと あしのつけねと こしと てくびと あと」


さいごまで いいおわらないうちに オーガストに ぎゅうって だきしめられた。

オーガストの むね あったかい。


「モラ、悪かった……。こんな風にお前を抱くつもりはなかった。ごめんな……」


くっつけた むねから オーガストの しんぞうのおとが きこえる。

どきん どきん すごく はやい。


「辛かったろ、モラ」

「うん」


いたかったし こわかった。でも。


「よかった オーガスト いつもの オーガストだ」


やさしい いつもの オーガストだ。うれしい。ほっぺたが ぽかぽか する。

ぼくは そおっと てをのばして ぼくからも オーガストに だきついた。


「ぼく オーグが だいすきだよ」


そういったら オーガストは もっと もっと ぼくを ぎゅうって つよく だきしめた。くるしいけど うれしくて いっぱい どきどきして ぼくも いっぱい オーグを ぎゅうってした。




しばらく そうやって ふたりで ぎゅうって していたけど きがついたら あさひが さしこんできて オーガストは りくに うちあげられた さかなみたいに はねおきた。


「やべ! 何時だ、今! おい、モラ起きろ! 早く支度して乗組員室戻れ!」


いわれて ぼくも あわてて おきた。オーガストが ぼくに いそいで ふくを きせてくれる。


「ぼく じぶんで きられるよ?」

「俺が着せた方が早い」


いいながら ボタンを とめてくれる オーガスト。その うでに まかれた ほうたいに めが いって ぼくは ぽつり つぶやいた。


「ぼく オーガストに たすけられて ばっかりだ」


おかしらに つかまった とき。

うみに うかんでた とき。

ふねを おそったとき。


それから かじ。


と オーガストは ふっと わらって ぼくと めを あわせた。


「助けられてるのは俺の方だ」


それから オーガストは くしゃくしゃと ぼくの あたまを なでた。


「……ありがとな、モラ」


ぼくが わらうと オーガストも わらって それから やさしくて やわらかい キスを してくれた。

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