【番外編】 side クレイ
「世界の掃き溜め」。それがこの島につけられた名前。
もちろん、正式名称ではない。正しくは「ルートルード」というのだが、あまりその名で呼ぶものはいない。少なくとも私がこの島に来た時には、「掃き溜め」の方が浸透していた。
ここは海賊達が集う密貿易の中心地だ。私のような商人や、海賊達を相手に商売をする酒場の店主や売春婦、そして今は引退した「元・海賊」達も住んでいる。毎日が乱痴気騒ぎ、毎日が喧嘩と決闘。そんな中、彼女はまさに異色としか言いようがない。
「よし、これでウチの荷は全部ね。それじゃ、査定お願いね」
彼女の言葉に私は顔を上げた。と、目が合うなり彼女はぱっと顔を逸らし、何か言いたげに俯いてしまった。私は苦笑を噛み殺して、ゆっくりと返事をした。
「かしこまりました、私のお得意様。少々お時間をいただけますか?」
彼女はこくりと頷いて、小さな白い歯を見せた。
ジャヌアリーは本当に不思議な少女だ。小柄で細身で幼くて、だのにあの海賊船・ノースフィールド号を率いているというのだから。
「……ひとつお尋ねします、可憐なジャヌアリー」
呼びかけると彼女は、そのきりりと大きな瞳で私を見上げた。
「いつまで貴女はこのような危険な事を続けているのですか? 本国で国王の恩赦を受け、海賊稼業から足を洗えば、安全で優雅な暮らしも手に入るでしょうに」
と、ジャヌアリーはそれまでのふわりとした表情から一変して、すっと厳しい眼差しになった。
ああ、私はこの顔を知っている。これは――海に命を賭ける、海の民の眼。
「あたしは海で生きるよ。あの船と、あたしの兄弟達がいる限りね」
ああ、彼女は海賊なのだ。
わかっている。わかっていたのに。
と、打って変わってジャヌアリーはくすりと笑って肩をすくめた。その顔は既に少女のそれに戻っていた。
「でも、そんな事を言ってくれるのはあんた、クレイだけだよ。アリガト」
つられて私もふっと笑うと、彼女の手を取りその手の甲に唇を寄せた。
「わかりました、ジャヌアリー。でもこれだけは約束してください。きっとまた、無事にこの島へやって来ると」
すると彼女は見る間に赤くなり、それからはにかんで強く頷いた。
全く、敵うわけが無い。海が恋敵だなんて。
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