第2話 オーグの こいびと

にもつを みんなで どんどん ふねから おろして クレイの みせさきの テントまで はこぶ。おもいものも あったけど がんばって はこんだ。あせだくに なって いっぱい はこんだ。


「よし、これでウチの荷は全部ね。それじゃ、査定お願いね」


おかしらが そういうと クレイは ひくく あたまをさげて ていねいに こういった。


「かしこまりました、私のお得意様。少々お時間をいただけますか?」


おかしらは そのことばに うなずくと くるりと みんなの ほうを むいた。


「それじゃあ、配分までの間は好きにしてていいよ! 待ち合わせは夕方、いつもの酒場で。じゃ、一旦解散!」


それを きいて みんな わあっと えがおになった。ミルが はしってきて ぼくの ズボンを つんつんと ひっぱった。


「モラ、一緒に遊ぼう! どこ行く?」


「どうせならパーッといこうぜ! せっかくのおかだ!」

「よーっし、飲むぞー!」


と はしゃぐ みんなを ナナイが てをあげて せいしした。

みんなが ぎくりと くちを とじる。


「待った。何人か船で留守番をしないと。マイク、板の張替えをするって言ってたよね?」


とたんに マイクが かなしげに おおごえを あげた。


「って、俺が残るのかよ! 少しくらい飲みに行っても……」

「仕事はきっちり終わらせような。俺も残るから」


マイクは まだ なにか いおうとしてたけど ナナイは さっと おかしらの ところへ いってしまった。マイクが あたまを かきながら はーっと おおきな いきをはいた。


「ったく、ナナイは仕事が恋人だからなー……」


こいびと? こいびとって なんだろう。


「マイク マイク」

「あ? なんだ、モラ」


あくびまじりに マイクが こたえる。


「ねぇ マイク こいびとって なあに?」


とたんに ミストが あははと わらう。


「出た! モラの『なあに』攻撃!」


ぼくが くびを かしげると マイクも こまったように あたまを かいた。


「あー、つまりな、好きなヤツの事だよ」

「じゃあ マイクは ぼくの こいびとなの?」

「違う違う! この場合の好きはそうじゃなくて、えーとそうだな、キスしたり一緒に寝たりする方の好きだ」

「キスって なあに?」


ぼくが たずねると マイクは あたまを かかえこんで ミストは おなかを かかえこんだ。リリが とびまわりながら「キスシテ キスシテ」と たかいこえを あげた。ぼくより リリのほうが はやく ことばを おぼえる みたい。


「そうだな、えーと……」


うなる マイクの かたを とつぜん たたいた ひとが いた。マイクが ふりかえると そこには ひとりの おんなのひとが たっていた。


かみのけは まっくろで はだは まっしろで ほっぺたと くちびるだけ バラのいろ。おおきな めで マイクを みあげる そのかおは なんだか きらきら してる。くもみたいに まっしろな ドレスからは  おっきな おっぱいが こぼれそう。


「貴方達、ノースフィールド号の人よね? オーガストはまだ船の中?」


ミストが こたえようとした そのとき オーガストが ふねから おりてきた。


「オーグ!」


おんなのひとは オーガストに かけよると オーガストの くびに だきついた。それから オーガストの くちびるに じぶんの くちびるを かさねあわせた。


「オーグ、久しぶりじゃない! 淋しかったんだから」

「はは、子猫ちゃん、可愛い事言ってくれるじゃないか」


オーガストは わらって おんなのひとの こしを だきよせた。

オーグ オーグ そのひと だれ?


「丁度良かった、モラ。いいか、あれが『恋人』で今のが『キス』だ」


マイクが そっと みみうちして そう おしえて くれた。

にんげんに なってから いろんな ことばを おそわったけど こんなに むねが きりきり いたい ことばは はじめてだった。

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