第8話 うみと そら

しごとを おえて よるごはんを たべおわると みんな はやくから ハンモックに もぐりこんだ。


あしたは いよいよ みなとに つく ひだ。


ぼくも さいしょは みんなと いっしょに ねていたんだけれど よあけまえに めがさめた。ぼくは そおっと おきあがると のりくみいんしつから でて こっそり かんぱんに むかった。




なみの おとが ここちいい。

ぼくは ふねの てすりに あごを のっけて すいめんを のぞきこんだ。それから かおを あげて そらを みた。


よぞらは きょうも まんてんの ほし。

ぼく ほしって すきだ。きらきら きらきら すいこまれそう。


「きれいだね リリ」

「キレイ キレイ」


ぼくは リリの あたまを ひとさしゆびで よしよしと なでた。つやつやの はねが すべすべして きもちいい。


「夜風に当たりすぎるなよ。体を冷やす」


その ことばと どうじに おおきな うわぎが ぼくのかたに かけられた。この こえ!


「オーガスト!」

「何してんだ、こんな時間に」


ぼくは なにも こたえられなくて ぷるぷると くびを よこに ふった。

うわあ オーガストの うわぎだ! かっこいい くろい うわぎだ! 


ぼくは うわぎを ぎゅっとつかんで えりのなかに かおをうずめた。

オーガストの においが する。オーガストの あったかさが まだ のこってる。


オーガストは そんな ぼくをみて あきれたように ながい いきをはいた。


「ったく、寒いなら船室戻ってろっつーの。朝にゃ港に着くんだからな。寝坊してらんないぜ」

「うん!」


みなと みなと。

ぼくの うまれて はじめての りく!


オーガストは リリのあごを ひとさしゆびで かしかし こすると ふっと ぼくの かおをみた。


「で、コイツは何か覚えたか?」

「うん いま うたを おしえてるんだよ」


こたえて ぼくは あのうたを くちずさんだ。とたんに オーガストが まがおに なる。


「お前、その曲……」

「オーガストが つくったんでしょ?」 


そういって くびを かしげたら オーガストは てすりに ひじをついて まえがみを くしゃりと かきあげた。


「……あンのおしゃべり女……」

「すてきな きょく だね」


オーガストが しせんだけ ちらりと こっちに むけた。


「……そうか?」

「うん ぼく だいすきだ」

「ありがとよ」


オーガストが ふっと わらって めを ほそめる。

それだけで ぼくも うれしくて うれしくて わらいかえしたら オーガストに あたまを くしゃくしゃ なでられた。


それから オーガストは かおを まえにむけて とおく うみのはてを みた。ぼくも そっちに めをこらす。


きらきら ひかる なみと きらきら ひかる ほしと。

まっくろな うみと まっくろな そらと。


「どこまでが うみで どこまでが そらか わかんないね」


おもわず そういったら オーガストが くくくっと わらった。


「俺が決めてやるよ。お前、海と空どっちが好きだ?」

「うみ!」

「じゃあ、全部海だ。あの向こうも、そのマストの上も、お前の頭の上も全部海。それでどうだ?」


オーガストが ニッと わらった。


オーグ オーグ たすけて。

こいって こんなに くるしいの?

ぼくたち いま うみに つつまれてるの?


「折角だからもう少し起きてるか? 夜明けの水平線もそりゃあ綺麗なんだぜ」


オーガストは そう いったけれど ぼくは あさが こなければ いいと おもっていた。

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