第3話 たべて いいよ

どうしよう。

どうしよう。

ぼく どうしたら いいんだろう。




そのよる ぼくは のりくみいんしつで よこになりながら ぐるぐる かんがえて いた。


ハンモック すきだ。ゆらゆら ゆれて なみ みたい。

ふねも すきだ。うみも すき。

でも でも いちばんすきなのは。


ぼくは けっしんすると ハンモックから おりた。

きめた。ぼく もう きめたんだ。




オーガストの しつむしつを ノックすると すぐに オーガストの へんじが あった。やっぱり おきてた。


「ん? なんだ、お前か。どうした、こんな時間に」


ぼくは そおっと しつないに はいると ゆっくり ドアを とじた。オーガストは なにか かみの たばを ひろげて ビンをくわえて ワインを のんでいた。ぼくは どうやって きりだしたらいいか わからなくて もじもじ していた。


「モラ? どうした?」


モラ。

ぼくの なまえ。

オーガストが つけてくれた。


ぼくは ゆうきを だして てのひらを ぎゅうって にぎりしめると こういった。


「ぼくを たべて いいよ!」


オーガストが ブーッと ワインを ふきだした。ごほごほ むせながら ワインのビンを テーブルに おく。


「おっ前、いきなり何言い出すんだ!」

「だって ぼく オーガストがすきなんだ。だから」


こわいけど かなしいけど でも オーガスト マンボウ たべたいんでしょう?


かたかた ふるえながら でも きゅっと くちびるを かんで オーガストを みる。オーガストは しばらく むせてたけど それがおさまると ふーっと ながい いきをはいた。それから がたりと たちあがって ぼくのほうへ やってきた!


オーガストの てが ぼくの かたに ふれた。ぼくは びくっとして つよく めを とじた。


「……震えてるじゃねぇか。馬鹿な事言うな」

「でも でも ぼく」


オーガストは ふっと わらって ぼくの あたまを くしゃくしゃ なでた。


「あー、わかったわかった。気持ちはありがたく受け取っておく。だから今日はもう寝ろ。な」


そういって ぼくの せなかを ぽん と たたくと オーガストは しつむしつの ドアを あけた。そうして かたを だいたまま のりくみいんしつまで おくって くれた。


「じゃあな、モラ。しっかり寝ろよ」


ニッと いつもとおなじように わらって オーガストは へやを でていった。ぼくは いわれたとおり またハンモックに もぐりこんだ。


キイキイ ゆれる ハンモックのなか ぼくは だけど めを ぱっちり あけた ままだった。なみだが ぽろぽろ こぼれおちる。



にんげんとして やくたたずで。

マンボウとして たべてもらえなくて。



ぼく オーガストに なにもして あげられない。

そう おもうと ぽろぽろ ぽろぽろ なみだが とまらなくて のどが ヒックヒック ひきつった。

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