第5話 ともだちの おうえん

ごはんは おいしかった はずなのに とちゅうから あじなんて わかんなく なっちゃってた。


『安心しな、七日後には港につく。そうしたら降ろしてやるからな』


オーガストの ことばが あたまのなか ぐるぐる ぐるぐる。


ぼくは かんぱんに でて ふねの へりに りょううでを おいて したに ひろがる みなもを のぞいた。


まんげつが くろい うみに うつって ゆらゆら きれい。きれいなのに だんだん ぼやけて それから ぽとりと なみだが おちた。



ぼく なにしに きたんだろう。



にんげんに なったからって オーガストの そばに いられるって きまった わけじゃ なかったんだ。どうしよう。これから どうしよう。


と ぱしゃん と ちいさな みずおとが して ぼくは その おとのほうに めを こらした。なみまに きらきら ひかる うろこ。

あっ あれは!


「タイ!」


いっぴきの タイが ぱしゃん ぱしゃん と はねていた。あのこは ぼくの ともだちのタイだ。あの きれいな うろこは まちがいない!


「マンボウ。マンボウでしょ!?」


タイは ふねのちかくまで すいっと ちかづくと ぼくらにしか きこえない こえで ぼくを よんだ。


「マンボウ、どうしたの!? どうして人間に!?」

「うん……ウツボのおばばに くすりを もらったんだ」


タイは ぱしゃんと もういちど はねた。


「もうっ! あたしが聞いてるのはそういう事じゃないわよ! どうして人間になろうと思ったのかって、そういう話よ!」


あ そ そうか そうだよね。


タイは けれど くすりと わらって すこしだけ おびれを ゆらした。


「全く、人間になっても相変らずねぇ。で、どうしたの?」


タイの その いいかたが とっても やさしくて ぼくは また なみだが ぽろぽろ でてきてしまった。そんな ぼくに タイは「ゆっくりでいいわよ」と いってくれた。


これまでの はなしを はなしおえると タイは そっと ためいきを ついた。それから ちいさな こえで「寂しくなるわね」と いった。


「さびしい?」

「そうよ、もうマンボウに会えなくなっちゃうなんて」


え? あえない?


「でも ぼく もう うみに かえろうと おもってたんだけど……」


だって だって オーガストと いっしょに いられないなら にんげんに なっても しかた ないもの。


すると タイは とたんに つよい くちょうに なった。


「ちょっと! 何を言ってるの、もう諦めちゃうワケ!? だって、せっかく会えたんじゃない!」 


うん。そうなんだけど。


「だって、その人間のこと好きなんでしょ!? 海より、仲間より! だから人間になったんでしょ!?」


うん。そうなんだ。そうなんだ……!


「タイ タイ ぼく やっぱり オーガストが すきだ。やっぱり いっしょに いたいよ」


なきすぎて のどが ひっく ひっく いってて うまく しゃべれない。けれど タイは うれしそうに くるっと せんかいした。


「そうでしょ。だったら頑張らなくちゃ!」


ありがとう。ありがとう。ぼくたち ともだちだよね? にんげんに なっても これからも ずっと ともだち だよね?

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