第3話 にんげんの からだ

なんだか まぶたの むこうが まぶしくて ぼくは ゆっくり めを あけた。

まぶしい。まぶしい。


「気がついたか?」


なに? だあれ?


まばたきをして よく めをひらくと そこには ……あっ あのひとだ!


「おい、急に起き上がったらまずいだろ。まだ寝ておけ」


あわてて おきあがった ぼくの かたを あのひとが おおきな てで おしもどした。あれ? なんか へん。あれ?


……あっ ぼくの て。にんげんの て だ!

もうふを はがすと ……あっ あしも はえてる! にんげんだ ぼく にんげんに なったんだ!


「大丈夫か? 自分がどうなってたか、覚えてるか?」

「ぼく……」


ぼく おばばの くすりを のんで。


「お前、波の上に浮かんでたんだぜ? とにかく、気付いてよかった。おいジュン、」


あのひとが へやの はじっこにいた おとこのこに こえを かけると おとこのこは あわてて ぼくに かけよった。


「俺はお頭に報告してくる。ついでに船医も呼んでくるから、ジュンはコイツをみててやってくれ」

「はいっ!」


おとこのこが げんきに こたえると あのひとは ニッと わらって いすから たちあがった。そうして へやの そとに いってしまった。


どうしよう。ぼく どうしよう。ぐるぐる かんがえているうちに ドアは ばたんと とじてしまった。


「良かったね、気がついて。君、ずっと気を失ってたんだよ?」


おとこのこが ぼくに わらいかけた。ぼくも わらいかえすと おとこのこは ぼくに もうふを かけてくれた。


「僕は航海士のジュン。君の名前は?」


ぼく? ぼくのなまえ……。


「ない。なまえは ないんだ」


そういったら ジュンは めを ぱっちりひらいて しばらく だまりこんでから 「そっか」と いって しずかに ほほえんだ。


「あの。あのひとは?」


ぼくは さっきから ずっと あのひとのことが きになって きになって しかたが なかった。ぼくの しつもんに ジュンは にっこり こたえてくれた。


「ああ、オーグ? 彼はオーガスト。海に浮かんでた君を助けてくれたんだよ」


オーガスト……オーガスト。くちのなかで なんども くりかえしてみる。


おばばは おくすりで こいが なおるって いっていたのに ぼくのむねは まえより もっと どきどきして くるしくて しかたがなかった。


カーン カーン と どこからか たかい かねのねが ひびいてきた。すると ジュンは ぱっと いそいで たちあがった。


「交代の時間だ! ごめんね、僕もう行かなきゃ。一人で平気?」


ジュンが すこし こまったかおで きいてきたから ぼくは こくんと うなずいてみせた。


「うん。だいじょうぶ。ありがとう」


ジュンは「それじゃ、夕食の時間にね」といって げんきに へやを とびだしていった。ぼくは ひとり まどのそとに しせんを うつした。



うみって うえからみると こんなかんじだったんだ。



たまに ジャンプしたときに ちょっとだけ みえたりしてたけど ちゃんと みるのは はじめてだ。ゆうひを あびて ゆらゆら きらきら とっても きれい。


ぼくが うみを ながめていたら コンコンと ていねいな ノックがきこえて せんしつの ドアが しずかにあいた。

そうして またべつの おとこのひとが はいってきた。


「目が覚めたそうですね。気分はどうですか?」


しろい ふくをきた そのひとは おだやかなこえで たずねると ベッドのそばに いすをもってきて こしかけた。

そうして おおきな かばんから ぎんいろの いろんなものを とりだしながら ぼくに ふんわり ほほえみかけた。


「私は船医のハッサンです。少し、あなたの様子を診せてくださいね?」


いいながら ハッサンは ぼくの うでを とって なにかを はかったり くちのなかを しらべたりした。


ぼくは されるがまま じっとしていた。そうして ハッサンが いじるばしょ さわるばしょを いっしょになって じっくり みていた。


これが にんげんの うで。

それから おなか。あし。なんだか ふしぎなかんじ。


これが にんげん。あのひとの……オーガストの うでも こんなかんじなのかな。おなかも あしも。


そう おもったら かおが きゅうに かあっと あつくなった。


「おや、少し熱があるようですね。もう少し寝ていたほうがいいのでは?」


ハッサンにいわれて ぼくは あわてて くびをふった。だって これは びょうきじゃないって おばばが いってた。


「だいじょうぶ。もう おきられるよ」


ぼくは もうふを どかして ベッドから おりた。はじめて あしで たってみる。すこし バランスをとるのが むずかしい。


よろっとしたら ハッサンが りょううでで だきとめてくれた。


「ほら、やっぱり。もう少し休んでください。いいですね?」


いいながら ひょいっと ぼくを だきあげて ぼくは また ねかされて しまった。


「また後で様子を見にきます。そうそう、オーガストもまた来ると言っていましたよ」


オーガストが!?


そのなまえを きいただけで また ほっぺたが ぽかぽか してきた。


ハッサンが へやから でてからも ぼくは オーガストに あえる ことだけを かんがえていて ベッドのなか みぎに ころがったり ひだりに ころがったり じっとしてられなくて ずっと ころころ していた。

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