第6話 デート

「おはよーゆう君、待った?」


「いや、今きたところだよ」


 世の中では恋人の挨拶と思われている会話をする。


「昨日必死で勉強した甲斐があったねー」


 テスト前だしデートは延期にしようと考えていたけど、彼女が物凄い勢いで勉強していたから結局来ることになったのだ。


「それじゃあいこっか」


「そうだねー」


 今回は服を買いに行く予定なので、服屋に向かってたのだけど、やっぱり視線を感じる。

 みゆはとっても可愛いので見られるのは分かっていたけど、隣にいるのがあんまり冴えない――


「ゆう君今しょうもない事考えてるでしょー」


「え?」


「ゆう君の顔を見ればわかるよ、自分が似合ってないとでも言いたそうな顔だし」


 彼女はめずらしく真面目なトーンで言う。


「中学校の頃の助けてくれた事は本当に感謝してるし、ゆう君大好きだから釣り合って無いとか思われるとちょっと悲しいよ」


「ごめん、そうだよね」


 周りからの見られようと関係ないとは言わないけど、お互いの事が好きなんだから何にも気にする事必要はない。


「は、早く行こっか」


「なになにー?照れてるの?」


 やっぱりみゆの率直な所は、なんかこう……ムズムズする。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「みゆはどれがいいと思う?」


「私は別にどれでもいいけどねー」


 彼女はファッションには基本的に無頓着だ。

 今着ているのはショートパンツに白いシャツで、僕が昔プレゼントしたシンプルなものだ。


「これなんか如何でしょうか」


 店員さんが聞いてきても、基本的に僕が可愛いと思った物でいいとしか言わないので、店員さんも苦笑いだ。


「だって何着てもゆう君は可愛いって思ってくれるでしょ?」


「そ、そうだけどさ」


 結局買ったのは似たようなものが数着だけで、彼女のめんどくささに押された感じだ。


 ちなみにだけど、高めの金額は大体は割り勘にしている。片方が払って片方が奢られるという一方通行になりたくないらしい。


「ちょっと疲れた?公園があるから休もうか?」


「うん、ごめんねー」


 公園のベンチに腰を下ろす。

 驚くほどに人がいなかった。


 隣のみゆを見ると、服を持ってパタパタと風通しをよくしていた。


「ん?何かついてるー?」


「いやそう言うわけじゃないんだけど」


 そう言うと、みゆは何を思ったのか目をつぶってこちらに唇を寄せてくる。何にも考えないまま僕も無意識に近づいて……


 ガサガサ


「「!!」」


 近くで物音がした事で急に我にかえり、物凄いスピードで離れる。

 い、今何をしようとしていたんだ!?


 まだ混乱も冷めきらぬうちに、後ろの草藪からなぜか人が出てくる。


「ここの近くで茶髪の男の人見なかった?」


「み、見てないですけど」


「あれ?おかしいな?あ、ごめんね邪魔したみたいで」


「い、いえ」


 そう言って去っていく女性の顔が見えなくて、髪の色すら認識できなかったのだけど、そんな不思議現象を気にしている暇はなかった。


「帰ろっか……」


「……」


 漫画見たいなロマンチックな初めては起こらなくて、唐突に訪れるものなんだなとおもいながら、僕らは無言で帰路についた。



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