第6話 精霊達の円卓

 眩い白い光が体を覆いつくす。

 隣で歩いているダークエルフのリントスが見えなくなってくる。

 あれほど黒くて紫がかっている肌をしているリントスの姿を消すほど光は信じられない程輝いていた。


 不思議と向かう先は分かっている。

 光の輝き1つずつ粒のように蒸発していく。

 それは蒸気のようなものだが、蒸気ではない。

 魔法のようなそれだ。



「この度はフェニックス様をお連れしました。精霊様達とお話をしたいそうです。それでは」



 そう発言してリントスは後ろに開かれているドアの前まで行き、枯草色のドアの付近で待機するようだ。

 僕としては少し心強いと思いつつ。

 辺りを見渡す。


 円卓のようなテーブルが存在している。

 丸いテーブルには3人の精霊が座っていた。


 

 彼等は僕を興味深そうに眺めている。



「これはまたフェニックス殿ではないか、死んだと思っていたが」

「何を言うのです。フェニックスは炎から蘇るのですよ」

「それもそうですわね」



 最初に口を開いたのは、まるで強気の塊のような存在。

 頭から炎を撒き散らしながら、周りに危害を加えない炎であった。



 体中が燃え上がる中、水着のような衣服を着用している。

 際どい水着の為。こちらは視線を逸らす必要がある。


 

 鑑定は恐ろしくて使用出来ない。

 恐らく使ったらバレるだろう。

 バレた後に機嫌を悪くして焼き鳥にされるだろう。



「わっちはサラマンダー。炎の精霊のサラマンダーだぜ、覚えておくように」


「あたしはウンディーネ。水の精霊のウンディーネよ、できれば覚えて欲しいな、フェニックスの申し子よ」


「うちはシルフ。風の精霊のシルフ、あらゆる物を吹き飛ばすよ、忘れたら承知しないんだから」


「ぼ、僕はそうだ僕には名前がないんだ」


 

 その時、初めて自分がフェニックスとかそういう固有名でしか呼ばれていなかった事に気付いた。

 唐突な気付きに僕はしょんぼりすると。


「まったくわっちらと同じ悩みを持っているようじゃのう、わっちらにも名前は存在しない、固有名詞のサラマンダーしかないのだから」

「そうですわねぇ、ならお互い名付け合うのはどうでしょうか」

「それいい考え、あんたの名前は3人で相談するけどうち達はあんたがつけなさい」


「本当にそれでいいのですか?」


 

 その場の精霊達がこくりと頷いてくれた。


 3人の精霊に名前を付けるとした。

 イメージがまとまってくる。

 色々と考えて、そして緊張してくる。後ろではリントスが冷や汗を掻いているのが気配で感じる。


「ではわっちからよ」


 サラマンダーがそう呟くと。

 僕は問答無用に名付けた。


「サラーナなんてどうですか」

「うんうん、それで良いよ人生で初めて名前をつけてもらっちった」


「ドキドキ、次はあたしです」

「ディーネなんてどう?」

「うん、それ最高」


「最後はなんだ?」

「シュンコ」

「なんだか渋いけどいいわね、うん、他の種族に名付けてもらうと、あれ、あれれれれ」



 それは突然巻き起こった。

 その場の空気が張りつめる。

 そして自分達は忘れていたのだ。


 精霊に名前を付けるという事は名付け親とシンクロするという事に。

 僕の全神経がサラマンダーのサラーナとウンディーネのディーネとシルフのシュンコとシンクロしていく。

 体中の細胞という細胞から精霊の力が溢れかえる。

 僕が僕でなくなっていくそのような感覚。



「「「あなたの名前はメテスです」」」



 僕はそれを心の底から頷いて受け取った。

 前世の名前はいつの間にか忘れてしまっていたが。

 今、現在進行形で新しい名前が手に入った。


 

 心の迷いや心の恐怖感、苦しいと思える嫌な気持ち。

 そういった気持ちがなくなっていく。



 なぜ人類は名前を付けていたのか、ようやく分かった気がする。

 100%理解する事は出来ないけど。

 自然の摂理がなんとなく頭にマッチした瞬間だった。



 するとサラマンダーとウンディーネとシルフがこちらを見ている。

 ウンディーネは水色の肌をしており、体のあちこちから水がふわふわと浮いている。



 シルフは風をジェットコースターのようにしながら、あちこち飛翔している。


 そして僕は決まった事を告げるのだ。

 こんなのありえないって言われるかもしれないけど。



「よければ3人とも僕達の国に住んでみませんか?」



 その時生まれて初めて一緒に住みませんかと招待されたのだろう。

 3人の精霊は口をぽかんと開けながら、唖然としていた。

 それでも僕はこの謎の空間を見ながら。



「もちろん住みたい」

「当たり前ですこと」

「ったくよーそんなの聞かなくてもわかるだろ」


 

「そうですね、僕達はシンクロしているのですから」

「「「その通り」」」


「では色々とそれについても触れつつ会議を続けよう、メテス君も椅子に座りたまえ」


「ありがとうございますサラマンダー」

「そこれはあれだろ」



「そうでしたね、サラーナありがとう」

「へへん」



 かくして会議に乱入してまた会議は続く。


 3人の精霊が椅子にどかっと座ると、サラマンダーの後ろの空間が炎の渦に包まれる。

 輝かしい炎がまるでダンスをするように、炎の槍を降らせるように。


 ウンディーネの後ろの空間では多量の海が出現する。

 それが幻覚または幻影だと分かっていても。波はまるでこちらに襲い掛かるようにやってくるけど、ここまで到達する事はない。


 シルフの後ろの空間ではカマイタチの嵐が巻き上がり、風が無数に飛び散る。

 そこに沢山の小さなシルフ達が笑い声を上げながら、くるくると吹き飛ばされている。

 まるでジェットコースターそのものであった。


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