異世界帰りの憂鬱

たーばら

復讐の陰陽師編

第1話 プロローグ

剣と魔法が飛び交う異世界ローダリオス。現在この異世界の半分は恐るべき力を持った魔王の手によって支配され、人類の国々にその魔の手が及ぶのも最早時間の問題だった。

この危機的状況を打破するために人類は魔王に対抗できる戦士、勇者を召還した。召還された勇者はその圧倒的な力で魔王の軍勢を瞬く間に蹴散らし、人類にとって大きな希望となった。

やがて魔王軍と勇者率いる人間軍による世界の命運をかけた戦いの火蓋が切って落とされる。この戦いは約2ヶ月にも及び、疲弊しきった両軍はついにお互いの切り札を投入し魔王と勇者による双方の主力戦に突入した。


魔王軍本拠地 魔王城 玉座の間

「魔王よ、お前にこの世界は渡さない。」

ローダリオスに勇者として召還された高校生、山代洋介やましろようすけはそう言って聖剣を鞘から抜いて構える。

聖剣とは選ばれた勇者しか扱うことができない強大な力を持った武器。熟練の錬金術師と鍛冶職人が技術の粋を結集させて造った魔王討伐の最終兵器である。

そして、その聖剣を武器に洋介は3人、あっ、間違えた俺も合わせると4人の仲間と共に魔王へ戦いを挑もうとしていた。

言い忘れていたが彼はこの作品の主人公じゃないのでお忘れなく。

「よく来たな、勇者共。待ちくたびれて寝てしまうところだったわ。」

頭に角が生えたロングヘアーの女―魔王が玉座に腰かけながら言う。

「御託はいいからさっさと始めてくれない?さっさとあなたを倒して早くもとの世界に帰りたいから。」

そう言ったツインテールの少女は勇者パーティの一人、野沢加奈のざわかなだ。彼女はこのパーティの格闘家を担っており、近接戦闘だけなら洋介に匹敵する。

「妾を倒す、か。その自信がどこまで続くか試させてもらおうかのう。」

「望むところだ、魔王!お前を倒して僕たちはもとの世界に帰る!」

洋介が魔王に立ち向かったのを皮切りに勇者たちと魔王の戦いが始まるのだった。



「ハアァァッ!」

「遅いのう。あくびが出そうじゃ。」

洋介は魔王の首元めがけて聖剣を両手を使って全力で斬りかかるがその攻撃は右手から出された剣で簡単に受け止められ、逆に洋介は魔王の手から出された衝撃波による攻撃で後方に吹き飛ばされ壁に激突した。

「ぐっ!」

「洋介!」

加奈は洋介の吹き飛ばされた方向を見るとそう叫ぶ。

「よそ見しとる暇はないぞ?」

「!?」

加奈が振り返るとそこにはさっきまで洋介のもとにいた魔王が立っていた。 魔王は瞬間移動で加奈の背後に移動してきたのだった。

(しまった!動揺してる隙を突かれた!防御が間に合わない!!)

「終わりじゃ。」

「がっ!」

加奈は魔王の膝蹴りを無防備な背中から直接食らう。

「加奈ちゃん!」

「加奈っち!」

そう叫び瀕死の加奈の元に駆け寄った黒髪の少女とショートヘアーの少女は勇者パーティの僧侶、 斉藤優香と剣士の水島志穂だ。

優香はパーティ唯一の回復役でその能力は王国最大級の教会を管理する教皇並である。

志穂は優れた剣術だけでなく相手の攻撃を見切る驚異の動体視力も持っておりその実力は勇者に恥じない本物だ。

「加奈ちゃん!しっかりして!すぐ回復魔法かけるから!」

「よくも加奈っちを!火属性魔法、炎熱刃!」

志穂が怒りに任せて剣に火属性魔法をかけ、距離をつめるとそれを魔王にぶつけた。

「なかなかいい攻撃じゃな。」

「そんな、私の一撃を受けて無傷なんて…。」

しかし、志穂の渾身の一撃は魔王にとって何の苦でもなかった。

「あぐっ!」

志穂が魔王に首元を捕まれ思い切り投げ飛ばされる。

「さて、そろそろ終わりにしようかの。さすがに飽きてきたわ。」

(ああ、私たち死ぬんだ。お父さん、お母さん、親孝行できなくてごめんなさい。)

優香は死を覚悟し目をつぶった。

「死ね。」

魔王は片手で持っていた剣を振り下ろす。振り下ろされた剣は戦意が喪失し膝から崩れ落ちている優香を切り裂く…はずだった。

「か、和彦さん!」

魔王の剣による攻撃を先端に漆黒の宝石によって装飾された杖で防いでいる人物がそこにはいた。

「悪い、すっかり寝坊しちまった。大丈夫か?」

「大丈夫か?じゃないですよ!なんで魔王討伐当日に寝坊するんですか!」

「仕方ないだろ。どんなときでも朝は二度寝したくなるもんなんだよ。俺は悪くない!」

「開き直らないでください!」

優香と和彦と呼ばれた黒ローブに仮面をつけた魔法使いがあーだこーだと口論を続ける。

「…お主、何者じゃ?」

すっかり蚊帳の外だった魔王が問いただす。

「俺?ただのしがない魔法使いです。」

「嘘をつくな。ただの魔法使いが我の攻撃を防げるはずがない。」

そう思うのも無理はない。魔族と人間では身体能力や魔力量に圧倒的な差がある。しかも、魔王は魔族の中でも飛び抜けてそれらが高い。普通の人間なら魔王の剣をさばけるものなどいるわけがない。それをこの身長190センチ超えの男はいともたやすくやってのけたのだ。勇者である洋介たちですら魔王の猛攻から回避に専念するのがやっとだというのに。

「じゃあ、ただの魔法使いじゃないってことなんじゃないの?」

「ふん、まぁいい。今さら一人増えたところでこの戦況は変わりはしない。我の圧勝だ。」

「さて、それはどうかな?優香、お前は回復魔法でほかの3人の傷を治してくれ。」

「分かりました!」

「させん!」

魔王が優香の回復魔法を阻止するため距離をつめる。

「おっと、お前の相手は俺だ。」

「邪魔をするな!」

「そんなもん当たるわけないだろ。ちゃんと狙ってんの?」

「黙れ!」

「おー、怖い怖い。そんなに怒るとシワが増えるから止めたほうがいいぞ。」

「図に乗るな!」

魔王はそう叫び持っていた剣で和彦に斬りかかるが紙一重で全て避けられるうえに見事に煽られ激情する。

「あの身のこなし、流石師匠だ。あの魔王相手に全く傷を負ってない。それどころか的確に煽って相手の動きを鈍らせている。」

「ほんとね。つくづく敵でなくてよかったと思うわ。」

和彦が魔王を引き付けている間、洋介と加奈と志穂は優香に回復魔法をかけてもらっていた。

「そろそろあいつらの回復が終わる頃だな。時間稼ぎ終了。あとはまかせるぜ、勇者様。」

「はい!みんな、いくぞ!」

そのあとも魔王と勇者の戦いは続いた。しかし、それも少しずつ終わりを迎えようとしていた。

「これでとどめだ!魔王!」

洋介が聖剣にありったけの魔力をこめて必殺の一撃を放つ。

「バ、バカな。この私が、この私がぁぁぁー!」

その一撃は魔王の肉体を城の天井ごと跡形もなく消し飛ばした。

「ついにやったんだね、洋介。」

「ああ。この戦い、僕たちの勝利だ!」

魔王との戦いは勇者たちの勝利に終わったのだった。



1か月後 ラーデリオン王国 ラーデリオン城 王の間

「勇者たちよ、此度の魔王討伐大義であった。国民の代表として国王の私から礼を言う。」

「ありがとうございます。」

「ついては今日、魔王討伐の祝勝会がこの城で開かれる。ぜひ勇者様たちには参加してもらいたい。」

「ぜひ参加させてください。」

「俺はパス。さっさと帰って家の飯が食いたいからな。この世界の食い物はパンばかりでどうも好きになれない。やっぱり米が一番だ。」

「むぅ、良いのか?そなたには勇者を手助けした報酬が支払われるのだぞ。それでも参加しないのか?」

「あれは成り行き上助けただけだ。元の世界に帰るには魔王の持つ魔石が必要だったんだろ?魔王を倒せるのは勇者だけ。死なれると帰れなくなって困る。」

「またまた、ご謙遜を。師匠の強さなら魔王ぐらい簡単に倒せたはずです。現に魔王と対峙していたとき息ひとつ乱していなかったじゃないですか。」

「ただの買いかぶりだ。それと俺のこと師匠って呼ぶのは止めてくれ。とにかく、俺は早く帰りたいってことだ。」

「そこまでいうならわかった。すぐ帰還魔法の用意をしよう。」

「ご理解に感謝。」

国王は側近に命令して帰還魔法を発動させる。すると、王の間の床に描かれていた魔方陣が光りだす。

「準備ができました。魔方陣の中へお入りください。」

「じゃあ俺は一足先に帰る。向こうの世界でまた会ったら一緒に飯でも食おうぜ。」

「はい。今までありがとうございました。」

「私からも礼を言うわ。」

「…ありがと。」

「和彦さん。お元気で。」

「おう、お前らもな。」

和彦はそう言い残すと魔方陣にはいる。やがて部屋中が光に包まれ和彦は元の世界に帰っていった。































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