バカ王
私はすぐさま騎士団だかなんだかの偉い人の前に通された。
「あなたなら戦争を終わらせることができるのかしら?」
わざとふてぶてしい態度で話す。出来るだけ嘗められないように、一応考えてみたのだ。
すると、騎士団長だかなんだかの人は不愉快そうに顔を歪めた。
「あのな、俺なんかにそんな権限あるわけねえだろう。部下がえらい怯えながら訴えてくるもんだから一応会ってやったが、何なんだお前?」
太い腕を組んで私を高圧的に見下ろしてくる。
「だから言ったでしょう。私は精霊王の使い。戦争を終わらせるよう言いに来たのよ。いいわ、ちょっと面倒だけど、あなたも私の力が見たいってわけね?」
そう言って相手に向かって右手をかざした。
《氷の塊をとばして》
瞬く間にピキピキと尖った氷の塊が私の手の前に出現した。
男が目を見開いて驚愕している顔のすぐ横を、ギュンッとその塊が通りすぎ、ドゴーンと壁に勢いよく激突した。
「………」
団長とか言う人は氷の塊が顔のすぐ横を通っていって驚いたようでしばらく固まって動かなかったけれど、部屋の様子を窺っていた一般兵士たちは大騒ぎだった。
「うおおおお! なんだ今の!?」
「こ、これ氷が壁にめり込んでるぞ!」
「一体どうやったんだ!?」
「ちょ、見ろよ団長固まってるぞ!」
私はそんなパフォーマンスをあと二回ほど繰り返し、ついに国王に直接話をすることを許された。
「そなたが妖術使いか」
そんなことを高いところから偉そうに言ってくる国王は、なぜそんなに太る余裕があるのかと問い質したくなるほどぶくぶくと肥え太っている。
因みに美女三人を横に侍らしてもいる。なんなのあいつ。
私は嫌な気持ちを押し込めて、頭も下げずに返事をした。
「妖術ではなく、……魔術です。聞いているかもしれませんが、私は精霊王の使い。さっさと戦争を終わらせないと、精霊王はお怒りになりますよ」
「ふむ……」
「ただの使いである私ですら、雷を落とすことができるのです。精霊王がお怒りになればどうなるか、少しは想像できませんか?」
「いや、だがなぁ……」
ここまで言っても、国王の反応は悪い。というか、美女三人侍らしといて、こっちにまでなんだか下卑た目を向けてきてる気がするんだけど。
気持ち悪っ。
こんなのがこの国の王なわけ?
「困りましたね。聞き入れてくださらないならば、こちらは強硬手段も辞さないと考えていますけれど?」
《魔力をあげる。氷を出して》
私が素早く精霊たちにお願いすると、精霊たちはイメージ通りの細長い形の氷の塊をいくつも出してくれた。
それは広いホールの天井を埋め尽くすほどで、ホールにいた人たちが次々に叫び声をあげる。
「ぎゃあああっ」
「落ちてくるぞ!」
「うわあーっ」
「た、助けてくれ!」
脅すくらいやってみせるよ、私は戦争を終わらせるって決めたんだから!
「これを落としてあなたたちが死んだら、嫌でも戦争は終わりますよね?」
私はにこりと笑いながらそう言った。
本当にやる気はない。そもそも今の国王だけが死んでも、すぐ同じような人が国王になれば同じことだ。何とかして国に『戦争はしません』と約束してもらわなければならない。
一村娘の私が普通にやってそんなことできるわけがない。どうしても多少の武力行使は必要なのだ。
国王は自分の上にある鋭い氷の塊を見てガタガタと震え始めた。
「ぶ、無礼なっ! 貴様、余を誰だと思っておる!?」
「この国の王でしょう? けれどあなたを敬う気は私には全くないわ。さっさと決めて。戦争を止める? それとも、死ぬ?」
私は不敵に微笑んでみせた。
「お、お待ちください、使者様!」
国王の横にいる賢そうな人が私に声をかけた。
私はその人に視線を向ける。
「戦争を終わらせると言っても、簡単には参りません。あなたは我が国の兵士を何万と殺した敵国に、全面降伏を申し出ろと仰るのですか!?」
「この戦争をけしかけたのはこちら側でしょう? 何万の自国の民を殺したのもあなたたちのようなものではないですか。自分たちの責を棚に上げて、一体何を言っているの?」
私を説得しようとしていた男は愕然とした顔をした。
「い、いや、しかしそれは……」
彼は苦しそうな顔をして、ちらりと国王の方を見る。
……なるほど。バカな国王の鶴の一声というわけ?
「そこのバカ。今すぐ向こうの国に和平を申し入れなさい。でないとそのたるんだ脂身が本当にただの肉塊になるわよ?」
「………………」
その後しばらく声を発する者はいなかった。
けれど、笑うのを我慢しているのか、顔を真っ赤にして顔を背けている兵士が何人もいる。
「ぶ、ぶ、無礼者おぉぉぉっ! 誰か、こやつを捕らえよ! 何をボーッとしておるのだッ!」
脂身が真っ赤になって喚き出した。
「し、しかし陛下、あの魔術を使われたら……」
「何をこの腰抜けが! 全員でかかればあのような女一人、捕らえられぬわけがなかろうが! 行け! 行かねば貴様ら全員死刑にしてやるぞ!」
なんという予想を越えたバカなのだろうか。
私は怒りを通り越して呆れ果てた。
躊躇いながらも兵士たちの一部がジリジリと私に近寄ってくる。
「やめておいた方がいいわよ? 私に攻撃したらどうなるか……誰が試してみる?」
自分は安全だと思うと大胆なことが言えるものだなと考えながら不敵な笑顔で周囲を見渡す。
「く、くそっ!」
若い兵士が目を瞑りながらも果敢に向かってくる。素手で私を押し倒すなりして拘束するつもりなのか突進してきているけれど、彼は私には触れることはできないのだ。
《跳ね返して》
「ぶっ!」
私の腕三つ分くらいの距離で、兵士は何かに弾かれたように吹っ飛んでゴロゴロと転がった。
「………」
いくつもの目が恐ろしいものを見るように私を見ている。
ごめんね兵士さん。私、何が何でもやらなきゃいけないの。
「な、な、何をやっとるかあぁああああーっ! 全員で行け! 全員……っ」
ズドドドドッ!
うるさい豚のすぐそばに、浮かべていた氷の塊をいくつか突き刺した。
「次は当てるけど」
「………」
うるさかった脂身は、泡を吹いて気を失っていた。
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