ガラスでできた戦争

石井(5)

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 私の話をするにはまず、彼女の話から始めなければならない。


 いつもそうだ。彼女が先。ラグビー場の裏に新しく見つけた秘密の場所に踏み込むときも、二人で出し合ったお金で買ったアイスキャンデーを分けあうときも。

 墓場に入るのも、彼女が先だった。


 今もおそらく彼女は、あのサウサンプトンの隅っこ、ネットリーに残るかすかな良心である国教会の墓地で眠っているのだろう。真実は知らない。私は墓を暴いたわけではないし、生死を司るハデスでもない。だから、もしかしたら彼女は土の下にアパートメントを建設し、あの健康的な太ももであぐらをかいて、子供っぽい童謡マザーグースを口ずさんでいるのかもしれない。口に残る甘ったるいお手製のプディングを焼いているのかもしれない。

 太陽と月にまつわる五行詩を書いているのかもしれない。もう二度と太陽と月を見ることなどできないというのに。


 ああ、あの萎びたネットリーに注ぐ太陽と月……何もかもをこれで見透かしてやろうというように赤い光線を降り注ぐ太陽と、ぞっとするほど冷たい暗闇に空いた、月を僭称する排水口。


 あの土地には、亡霊が多すぎた。修道院の廃墟、跡形もなく消えた軍病院、そして彼女。


 だから私はあの町を出た。


 ケンブリッジへ行き、大いなるゲームプレイヤーたちにスカウトされ、女王陛下の備品となった。

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