12話 さようなら、アイビー

「サクラバさん」


「アムネシア?」


「うん。でも、アムネシアじゃない私もいるの」


「もしかして、記憶が……」


「そうなの。私は、アムネシアになる前の私はアイビーなの」


「そう……」


 町へ帰ると一番にサクラバさんのもとへ行った。


 記憶が戻ったことを言いたかったから。一番に、感謝の言葉を言いたかったから。


「えっと、アイビーって呼んだ方がいいかな?」


「ううん。そのままで、アムネシアって呼んでほしいの」


「え?」


「私、アイビーの名は捨てることにしたの」


「ええ!?」


 驚かせてばかり。


 これから言うことも、きっと驚くだろうな。


「私、アムネシアとしてここ、この町にいたいの」


「っ」


「ザグラスさんにも話はしてきたよ。彼も受け入れてくれた」


「それでも。それでも、貴方はここより大きな所で育った方が……!」


「ここの自然が好き」


「え?」


「ここの自然が好き。ここにいる人達が好き。サクラバさんが大好き」


 私がここにいたい理由。


 それは……。


「今まで過ごした時間が一番短いけれど、一番楽しかったの。大好きな人達と一緒にここで暮らしたい。ただそれだけなの」


「……いいの?」


「うん。ここが好きだから」


 後は、皆に受け入れてもらうだけ。


 ダメだったら素直に諦めるから。


「ありがとう」


「ここに、いていい?」


「もちろん」


 一粒の涙を流したサクラバさん。


 今まで見てきた彼女は、どこか何かを隠しているようだった。


 でも、でも今の彼女は何も隠していない。


 純粋で綺麗なサクラバさん。


 春に咲く、“サクラ”のような美しさが彼女にはあった。



「サクラバさん」


「どうしたの?」


「私に“アムネシア”という名を付けてくれてありがとう」


「いいえ! こちらこそ、ここに来てくれてありがとう」


 不本意で、望んでいなかった。


 でも、その不本意がこの縁を繋いでくれた。


 まだ、あの時の私の心情が思い出せない。


 でも、もうどうでもいい。


 私には大切な人が沢山いて。


 大切な居場所がある。


 今はそれだけで十分。


 それ以上は何も望まない。


「アムネシアちゃん」


「フリューゲルさん。それに、クルミちゃんにユズくん」


「姉ちゃんおかえり!」


「おかえりなさい!」


「記憶が戻って良かったね」


 何も言わない。


 何も聞かない皆が大好きだ。


 知らなくても受け入れてくれる。


 知っていても受け入れてくれている。


「っ。ありがとう、皆!」


 私は抱きついた。


「うお!!」


「急に抱きつくと危ないよ」


「あったかーい!」


 精一杯の力を込めて。


 ぎゅっと、ぎゅっと―――。

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