8話 突然

「たくさん食べたね!」


「はい」


 昼食はイタリアンというものを食べた。


 凄く凄く美味しかった。


「さて、今度はどこいく?」


「どうしましょう……」


 次にどこにいくか行き先を迷っていた時。


「アイビー?」


「え?」


 知らない人の名前で呼ばれた。


「もしかして、この子の名前、アイビーですか?」


「はい?」


「あの、少し話いいですか」


「あ。構いません」


 元の私の話。


 もしかしたらこの人は知っているかもしれない。




「俺の名前はザグラス・クローバーです」


「サクラバ・グレーベンです」


「まず、話を聞いてもらえますか」


「ええ。構いません」


 私は男性。


 クローバーさんの話に耳を傾けた。


「俺の恋人、アイビーがいなくなったのは半年ほど前の話です。俺は軍で働いているのですが軍の命令でアイビーとは二年ほど離れてくらしていました」


「半年前、ですか」


「ええ。たしかなことは分かりません」


「どういうことですか?」


「アイビーは“孤児院”育ちだからです」


「!」


「え。そ、それは……」


「アイビーには親がいません」


 嘘だ。


 私は親がいなかったの?


 どうして。


「えっと、話を続けますね」


「は、はい」


「その、定期的にアイビーの暮らしを見に行っている孤児院の人から『アイビーがいなくなった、行方が分からない』と連絡を受け、帰って探そうとしていたのですが、仕事で半年も過ぎてしまい……」


「帰る途中に寄ったここでその、アイビーさんに似たこの子を見つけたってことですか?」


「そうです」


「なるほど」


「その。貴方はアイビーなのですか?」


「……」


 何も答えられなかった。


 貴方のことは何も知らないから。


「えっと。こちらの話も聞いていただけませんか?」


「もちろんです」


「この子は半年前に私が見つけた、身元が分からない子です」


「半年前……」


「そうです。ですがこの子は記憶喪失になってしまい、自分のことを含め、全てを忘れているんです」


「記憶喪失……」


「そうです。だからこの子がアイビーさんである証拠も、アイビーさんでない証拠もないのです」


「なるほど」


「この子の名前がわからないものですから、私はアムネシアと呼んでいます」


「アムネシア……」


「そうです」


「その、アムネシアさんが見つかった時、何か持っていたりしていましたか?」


「いえ、何も。服もぼろぼろで何も食べていない様子でした」


「そうですか……」


「あの、アイビーさんはどの辺に住んでいたんですか?」


「ここから西に町を越えて三つ先にある、クレバー市に住んでいます」


「クレバー市ですか」


「はい」


「アムネシア、聞き覚えとかある?」


「……ありません」


「そう」


「あの、俺のことは?」


「……知りません」


「っ」


 俯いていたからあまり見えなかったけれど。


 泣きそうな顔をしていた気がする。


「すいません。グレーベンさんの住所とか教えてもらえますか?」


「はい」


「これが今の俺の住所と電話番号です。アイビーの孤児院の方の住所と電話番号もあるので何かあれば……」


「はい。ありがとうございました」


「いえ。何か、少しでも思い出したら連絡くれると有難いです」


「分かりました」


「アムネシアさん。さようなら」


「さよう……なら」


 クローバーさんは立ち上がり、店を出て行った。


「アムネシア大丈夫?」


「はい」


 とてもじゃないけれど、今は。


 今は何も話したくない気分だ。

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