サンブンショウ

あすみ

わたしの劇薬

 下嶋の愛情はわたしにとって劇薬でしかなかった。下嶋と一緒にいたらだめになってしまいそうで、ひとりで立っていられなくなってしまいそうで、怖かった。そんな恐怖を感じてしまうほどに、奴の愛情は魅力的だった。

 結局、わたしも誰かの一番になりたいのだ。こんなわたしも生きてて良いのだと、そう確認して、安心してとろとろと涙を流せる場所に居たいのだ。下嶋に寄りかかって、依存して生きていたい。

 だというのに、わたしはわたしの周りの人間から一番を選ぶことはできない。わたしのなかの一番の座には、常にわたし自身が足を組んで座っているのだ。そんなわたしが誰かの、下嶋の一番になってしまっていいのだろうか。わたしは下嶋を一番には出来ないというのに。そんなの、ずるいじゃないか。


「馬鹿みたいだ」


 下嶋の想いには応えられない、最初から結論は出ていたというのにずっと奴のことを考えている。何も考えず眠っていたいのに、目をつむれば奴の顔がちらつく。

 ぼやけた視界の中、スマートフォンの明かりが新着メッセージを知らせる。


「うぅ……っ」


 どうしてわたしに構うんだ。どうして何度振り払っても変わらない笑顔を向けられるんだ。どうして、どうしてわたしなんかを愛してしまったんだ。

 薄暗いワンルームの中、下嶋からのメッセージを映したスマートフォンだけが優しくわたしを照らしていた。

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サンブンショウ あすみ @asm_x_

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