第20輪 武 器 新 調
「ほら、言われた通り直してやったぞ、嬢ちゃん」
鍛冶屋の親父は私にピカピカの杖を手渡す。
「あ、ああ……よかった! 私の杖が元通りに! 礼を言うわ、鍛冶屋のおじさん!」
私は戻ってきた杖を撫で
「…………にしてもあの嬢ちゃん、なんたって急にあんなに武器に愛着を?」
「まあ、いろいろあってな。…………というかあれ、ちゃんとリミアの杖だよな? 今までとは見た目がずいぶん違うようだが……?」
「100%完全に元通り、というわけにはいかなかったが、あれは間違いなく嬢ちゃんの武器だよ。…………にしても、最初見た時はひどい有様で気づかなかったが、そいつはかなりいい杖だぜ、嬢ちゃん。普通の冒険者じゃあめったに手に入るもんじゃねえ。一体どこで手に入れたんだ?」
私は鍛冶屋の言葉に、目を伏せる。
「…………ま、まあいいでしょ! そんなことは……。それより、もともとの目的はキリヤのチャクラムでしょ? 早く見せてもらったら?」
「ああ、そうだ! おかげで昨日は一睡もできなかったぞ! そのせいか今テンションがおかしなことになっている! さあ、早く見せてくれ! 親父!」
「…………テンションがおかしいのはいつものことでしょ」
「そう慌てるな。ほら、こいつがお前の新しいチャクラムだ」
「こ、これは…………!」
キリヤの目が一気に輝きを増す。
「丸く整えられた取っ手に沿うように外側に刃が取り付けられている! さらに黄色を基調としたデザインでリッチ感を演出! それでいてこの殺傷力の高そうな刃! これぞチャクラム! まいらぶチャクラム! 鍛冶神ヘファイストスもびっくりの出来やで!」
「ごめん、前言撤回するわ。今のあんたはいつにもましておかしい」
「あはは、やっぱりチャクラム絡みの時のキリヤはおもしろいね!」
「まあ、ちょっと気味が悪いが、魂込めて作った武器を手に取ってここまで喜んでくれるなら、鍛冶屋として鼻が高いってもんだ。大事に使ってくれよ!」
「もちろんだ! 絹ごし豆腐を箸ですくい上げるように優しく扱おう! 改めて礼を言おう! 鍛冶神よ!」
「…………やっぱり気持ち悪いな」
私とミーニャは苦笑いする。
「…………ところで」
キリヤは、急に真剣な顔つきになって鍛冶屋を見つめる。
「このチャクラムには、ちゃんとあのゴーレムの素材が使われているんだよな?」
「…………。ああ、それはもうしっかりと、お前たちが持ってきたゴーレムの素材を使っているさ」
「…………そうか。ならば俺は、あのゴーレムの想いも背負って戦っていかなければならないな。ノーマルチャクラムよりも軽いはずなのに、なんだか重く感じるな…………」
「キリヤ…………」
あの戦いを通して、私にも少し、武器に対する思い、というものが分かった気がする。キリヤは、ちゃんと受け止めてからこのチャクラムを使っていくんだろう。
「…………ねえ、鍛冶屋のおじさん。ところでこのチャクラムは、なんて名前なの?」
ミーニャはふと気になったように、口を開く。
「ん? ああ…………名前はあるっちゃああるが、坊主が名付けないでいいのか?」
「! ああ、いや、俺は今回は自重しよう。名前を教えてくれ」
どうやら、自分の名づけが失敗する自覚はあるらしい。
「『グランドサークル』、大いなる大地の力を示すいい名前だろ?」
「『グランドサークル』、たしかにいい名だ。あんたが名付けたのか?」
「いいや、俺はレシピ通りに作っただけだ。というか、王国全土のチャクラムのレシピは、ある一人の伝説の鍛冶職人が書いたものが原典となっている」
「な、なに……! そんな人物が…………。一体、その人物の名は……?」
「本当の名前は知られていないが、その鍛冶職人はこう呼ばれている、『チャクラムマスター』」
「チャ……」
「「「チャクラムマスター!?」」」
あまりのネーミングに私たちはそろって声をあげる。
「そんな、そんなやつがこの世界に! なんてことだ! その人物に早く会いに行かねば!」
「ああ待て待て。チャクラムマスターはあくまで鍛冶職人の間での伝説で、実在しているのかどうかもわからないんだ。実在しているとして、まだ生きてるのかすらもな」
「な、なるほど。だが俺にはわかる! このチャクラムから感じる! きっとチャクラムマスターは生きて実在している! ……きっと、旅を続けていれば会えるはずだ……!」
キリヤはグランドサークルを見つめる。
「…………それじゃあ、そろそろ行きましょうか。杖、直してくれてありがとね、鍛冶屋のおじさん」
「ばいばい!」
「ああ、気をつけていけよ、お前ら!」
キリヤは口角を上げ、天に向かって指をさす。
「ああ、行くぞ! ……チャクラムマスターを探す旅に!」
「魔王を倒す旅に! ね!」
こうして、冒険者としてひとつ成長した私たちは、さらに先へと進むのだった。
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