第20話 恋の行方
コヂカが生徒会長になろうと思ったのにはいくつか理由がある。まず一つは、自分の心に空いた隙間を埋めるため。二つ目はカヅキとの接点を切らしたくなかったため。そしてもう一つは勝てる自信があったためだ。コヂカにはヲネと神隠しのシーグラスがついている。
立候補の話をするために放課後生徒会室へ行くと、現生徒会長のユリカの姿はなかった。代わりにカヅキがパソコンで何やら作業をしている。
「あ、お疲れさまです」
「おつかれ。ユリカ先輩は?」
「今ちょっとお手洗いに行ってます」
カヅキは手を止めてコヂカを見る。コヂカはあの時の、お昼休みのカヅキとユリカの姿がフラッシュバックした。大丈夫、あれはデリートの魔法で全部なかったことになったんだ。気にすることはない。そう自分に言い聞かせて、カヅキを見た。
「カヅキくんは何してるの?」
「次の生徒会選挙で使う投票用紙を作ってるんです。前の先輩がデータ飛ばしちゃったみたいで、1から作らなきゃいけなくなっちゃって」
「あはは、それは大変そうだね」
「海野先輩はどうしたんですか?」
「……立候補届をね、出しにきたの」
カヅキは一瞬驚いた顔をして、すぐに笑顔になった。
「会長ですか?!」
「うん」
「応援してます、先輩。一緒に頑張りましょう」
カヅキもどうやら会計に立候補するらしい。その憧れとたくましさを兼ね備えたきらきらした目に、コヂカは胸が高鳴って顔が熱くなるのを感じる。よかった、私の知っている、いつものカヅキくんが戻ってきた。
「うん、ありがとう。がんばろうね」
恋の萌芽はまだカヅキに芽吹いていないかもしれない。それでもいい。これからじっくり育てていけばいいのだ。コヂカにはまだ一年、余裕があるのだから。
「コヂカちゃん、おつかれーい」
「お疲れさまです」
そんな中、ユリカが生徒会室に戻ってきた。彼女ともあの一件以来、顔を合わせるのは初めてだ。そうは言っても、コヂカが一方的に覗いただけであり、さらにユリカの記憶は消えているわけなのだが。
☆☆☆
「シグレちゃんも立候補しているから、選挙で争うことになるね」
生徒会長への立候補の旨をコヂカが話すと、ユリカは厳しい顔をした。信任投票とは違って、選挙になればどちらか一人は必ず落選する。これまでの信任投票だけだった生徒会選挙が、生徒たちの手で会長を選ばなければならないものに変わるのだ。
シグレとコヂカ。二人を比べて、ユリカはコヂカが圧倒的に不利だと思った。はっきり言ってしまえば、生徒のほとんどはあまり生徒会に関心がない。2人が普段どんな性格で、どんな風に活動に取り組んでいるか、ほとんどの生徒は知らないのだ。その関心のない生徒たちに訴えかけ、勝敗を左右するのは、投票前に行われるたった一回の所信表明演説しかない。演説慣れしていて自分の考えをもっているシグレに、演説が苦手で自信がなさそうなコヂカが勝つことは難しいだろう。
「それはわかっています」
厳しい顔を続けるユリカにコヂカははっきりと言い、続けた。
「でも人に流されてばかりの自分の性格を変えたいんです。私の思ったことを、私の言葉で伝えられるようになりたいんです。お願いします」
ユリカは先輩として、コヂカの成長に胸を打たれた。恋のライバルとして恋人の記憶を抹消されたことは知る由もない。
「コヂカちゃんの思いは、よくよーっく分かった。コヂカちゃんもシグレちゃんもずっと私の後輩で、助けてもらってきたから、生徒会長の座をかけて二人が争うのは複雑な気持ちだけど、先輩として全力でサポートしていきたいと思う。どんな結果になっても、悔いが残らないようにね」
「ありがとうございます!」
ユリカはコヂカの立候補を受け入れた。コヂカは自分の思いをはっきりと言えたことと、ユリカがサポートしてくれることが何よりも嬉しかった。立候補届へのサインを終えると、コヂカはカヅキと目が合ってしまった。その時、彼が照れるように目を逸らしたことがコヂカをさらに舞い上がらせた。
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