第8話 噂の女子

「須坂さん? どんな子だっけ?」




 帰りのバスの車内。コヂカは仲良し3人に、シグレが立候補しようとしていることを相談することにした。眉間にしわを寄せて考えるマリにシオンが耳打ちする。




「ほら、一組のさ、眼鏡かけた子。よく講演会とかでも手を挙げたりしてる」


「あー……」




 マリの中でやっと顔と名前が一致したらしく、




「ない!」




と彼女ははっきり言いきった。




「まじであの子になったらしんじゃう。むり」


「なんでよ?」




 カンナが気だるそうに突っ込む。




「だって前に遅刻したときさ、このままじゃ大人になった時に通用しないだとか、めちゃくちゃ怒ってきて意味わかんなかった。そんなことあんたに言われなくてもわかってるし」


「私もあの子無理だなー」




 シオンが頬杖をつきながら言った。シオンはそもそもシグレに興味なさそうだ。




「カンナはどう?」




 コヂカは前の席に座る、カンナに尋ねてみる。




「うーん……。コヂカは立候補しないの?」




 カンナの言葉には素直さがあった。純粋になんで立候補しないのか疑問に思っているようだ。




「実は迷ってて、私なんかが生徒会長でいいのかなって」


「えぇっ! すごく向いてるじゃん」




 マリが驚いた顔をする。




「うん、私もコヂカが会長の方がいいな」




とシオンも同意した。『の方がいいな』だけど。




「だけど、私ってほら。あんまり自分の意見とか持たないし」




 本当は自分の意見、気持ちがないわけではない。ただ周りとズレてるから口にはできないだけだ。




「そういうタイプのほうが案外向いているんじゃない?」




 カンナは頭を横にして、コヂカに語り掛けた。ふんわりと髪が揺れる。




「うんうん。あの子になったらいろいろ改革とかしてきそうだし」




 マリがコヂカの横で何度も頷く。




「コヂカが立候補したら、コヂカに絶対入れるよ。うちら友達だし」




 カンナは不安そうなコヂカの目を見てそう言った。コヂカは彼女の優しさを感じる反面、湧き出してくるもやもやした天邪鬼な気持ちを抑えた。みんなはコヂカに生徒会長になってほしいのではなく、自分の意見を持った、改革を好む生徒が生徒会長になることを望んでいないだけだ。本当のコヂカは必要とされていない。




「コヂカどうした? なんかあったら相談に乗るからね」




 何も言わないで黙っていると、カンナが優しくそう言ってくれた。もしここで本心を言えたとしたら、カンナたちは友達でいてくれるだろうか。最悪シオンはいいとして、カンナとマリは……。それが怖くて、また自分に嘘をついてしまう。自分だけじゃない、カンナたちにも――。




「でも来年、受験だし」


「そっか、そうだよね。うちら部活は夏までだけど、生徒会は11月かあ」


「でもコヂカは成績良いから受験余裕でしょ」


「そんなことないよ。毎回テストだって結構ギリギリだし」


「てか来年の今ごろには、私たち部活引退してるんだね」

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