第7話 晩夏の二人
「ごめんねー、美術部の片付けお願いしちゃって」
ユリカは生徒会室で手を合わせて申し訳なさそうな顔をした。彼女が座る会長の机にはノートパソコンが置かれている。
「いえ、大丈夫です」
シグレは持ち帰った備品の段ボール箱を担ぎながら言った。
「これ、どこに置けばよろしいでしょうか?」
「そうねー、とりあえず私の机の横に置いといて」
「わかりました」
シグレは忙しそうにしているユリカの横までくると、
「失礼します」
と言って段ボール箱を床に下した。その中にはあのスケッチブックも入っている。
「コヂカちゃんとカヅキくんは?」
「部室にあったゴミを捨てに行っています」
「そう。2人が帰ってくるまでシグレちゃんもゆっくりしていなよ」
「そうします」
シグレはそう言った後、ユリカを見つめて続けた。
「あの、会長。今、少しお話よろしいでしょうか?」
☆☆☆
夜の匂いがし始めた。コヂカとカヅキはゴミステーションにゴミを出し終え、校舎裏の夕焼け道を歩いていた。廃墟の観音様が茜色に色づく。カヅキはスケッチブックの件が気まずかったのか、いつもより口数が少ないように見える。コヂカはそんな状況に耐えられないでいた。
「もうすぐ秋って感じだね」
いつもならこんな内容の薄い声掛けはしない。
「そうですね。来月にはもう10月ですし」
コヂカはこのままではカヅキに嫌われてしまう気がした。肺に入るぬるい風が痛い。
「……さっきはごめんね。気まずい空気にしちゃって」
「須坂先輩のことですか?」
スケッチブックに描かれた作品の審美なんかよりも、カヅキはシグレに意見した結果、場が重くなったことを気にしていた。
「あ、うん」
コヂカは一瞬否定するか迷ったが、カヅキの目を見て話を合わせた。
「先輩が謝ることじゃないと思います。須坂先輩が強く言い過ぎなのがいけないんです」
カヅキは語尾に笑いを交えながらそう言い、
「僕、須坂先輩、どうも苦手なんですよね」
と続けた。カヅキは普段、誰々が苦手だと公言するタイプではない。コヂカは意外だと思ったが、同時にカヅキと考えが合致して嬉しかった。
「実は私も」
「でも須坂先輩、生徒会長に立候補するらしいです」
「ほんとに?」
「はい。この前、挨拶活動で一緒になった時に話してました。この学校を変えたいんだって」
確かにシグレなら学校を良くする明確なビジョンがあるのかもしれない。ことなかれ主義で日和見的なコヂカがなるよりは向いている。わざわざカヅキがこの話をしたということは、コヂカが生徒会長になってほしいのかもしれない。
「カヅキくんは、次も生徒会に立候補するの?」
「僕はそのつもりです。1年生の任期って短いじゃないですか、まだまだやり残したことがあって」
「やり残したことって?」
「まだ3か月だけですけど、生徒会で活動してみて思うことがあったんです。部費の再分配は公平に行われているんだろうかとか。ユリカ先輩の運営は素晴らしいですけど、まだいろいろと改善できるところはあると思います」
「カヅキくんはほんとしっかりしてるなあ。将来の会長候補だね」
コヂカが羨望の眼差しを向けたのでカヅキは頬を赤くした。周りとのズレが怖いコヂカにとって、自分の意見を持って生きている人間は素直に羨ましかった。
「そんなことないですよ。ただ、成績とか内申点目当てに生徒会活動はやりたくないんです。それって間違っていると思います。自分のためではなく、他人のためにやるものなのですから」
コヂカはそんなカヅキの言葉を聞いてハッとした。コヂカは自身はどうなんだろうか。親からの期待に応えるため、自分の居場所をつくるためだけに生徒会に立候補した気がする。そんな自分に生徒会長になる資格はない。
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