商人の事情

「ていっ!」

 抱きしめているレンに対して、チョップをします。

「痛いです」

「何故叩かれたか、解るよね?」

「解っているけど、納得はしません」

 この子はとっさに私の前に立ち、道具屋の攻撃から守ろうとしていました。

「この程度では、肌に傷一つ出来ませんよ」

 飛び出したナイフは、壁に突き刺さっていますが、弾き返す事も出来ました。本当は、二人に攻撃が行かない様に、私が目標になる予定でした。

「レンが動くから、手加減失敗したじゃない」

 壁にめり込んで、瀕死の状態のガガガーンを見ます。

「すみません・・・」

 それを見て、レンも反省します。

「サーシャ、お願いしてもいい?」

「はい」

 瀕死のガガガーンの事は、サーシャに任せましょう。レンが勝手に動いて少し、私も動揺していたみたいです。

 この男は、自分で身を守るといっていたのに、動かなかったので自業自得です。でも、死なれると面倒です。今回は、助けましょう。

「さて、この男の記憶を確認しましょう・・・」


 男の名前はドーソン。予想通り、異世界から物を取引できる加護を持っていました。

 もっとも、知識の無いものを取引できず、この世界の物で、遠くから呼び寄せる能力と思っていたみたいです。

 ただ、地方による価格の差が大きい世界なので、情報さえあれば大儲けできる能力です。

 物流の概念があり、無制限に取引は出来ないみたいです。この手の能力、誰かが仲介をしているみたいですね。小人さんがいるのかもしれません。

 遠方の、特産品などを大量に呼び出して、利益を生み出していたようです。輸送コストが必要ないので、利益も他より多かったみたいです。

 代価は、金貨やこちらの特産品なので、普通に商売しているだけの男でした。

 ただ、最近やって来た男と手を組んだのが失敗です。

 その男の名前を、ドーソンは知りません。光の使途と名乗る男は、ドーソンに取引を強要しました。

 ドーソンの取引の秘密を、その男は見抜いていました。それだけでなく、ドーソンの知らない事を知っていました。

 光の使途の指示により、異世界から特殊な商品を呼び出す事が、できるようになりました。

 それは銃と呼ばれている存在。それを手にしたとき、光の使途は大喜びした。

 ドーソンは、その威力を見て、こんなものかと落胆した。魔法技術の進んだ世界なので、魔法のほうが、もっと凄い攻撃が出来るから、落胆した。

 それに、銃という商品は、値段がかなり高額だった。異世界からの取り寄せの場合、多額の手数料が発生していたのをドーソンは知らない。

 それに、銃はつかうごとに弾薬と言う物を消費する。これも中々高額だった。

 資金に関して、光の使途に相談すると、ある提案をされた。

 異世界から、小判と言う物を取り寄せろと。

 それを使い、買取に来た人に渡せといわれた。

 いわれたとおり、金としての価値を同じか、それ以上にして小判を渡す。

 渡された人のうち、何人かが、文句を良いながら襲い掛かってきた。

 それを、光の使途は銃で始末した。引鉄を引くだけで、簡単に死んでしまう。

 魔法とはちがう武器に、ドーソンは恐怖を感じた。

 死んだ相手は、盗賊として衛兵に突き出した。受け取った商品は、返していない。そのまま手元に残り、財産となった。

 ある程度、相手を選んでの犯行だ。

 小判を渡すのは、衛兵対策だった。衛兵の中には、嘘を見抜く加護や、不正を歓談できる加護を持つ人がいる。

 衛兵に対して、泥棒といわれ、襲われたので反撃した。こちらは、不正をしていないといった場合、価値が同じか、それ以上のもので取引しているので、見抜けれなかった。

 何故、小判だと偽物と感じるかといえば、同じ金貨であるが、あからさまにちがうので騙されたと感じるらしい。

 光の使途は、大量の弾薬を購入して、銃で魔物を退治しているらしい。

 銃といっても、ハンドガン。魔物を退治するのも限度がありそう。

 その後、10兆の銃を光の使途が取り寄せた。

 大量の弾丸も一緒に購入。かなりの高額だったが、光の使途が用意した聖剣が高額で取引できたので、ギリギリ資金は足りた。

 そして、光の使途は銃口をドーソンに向けた。

「革命の為の、犠牲になってもらいます」

 そう言いながら、引かれた引鉄。しかし、死んだのは光の使途だった。銃の暴発。運が良いのか悪いのか。この辺は、女神が介入した可能性もあります。

 ただ、取引履歴を確認すると、中のメンテナンスに必要な物を何一つ購入していません。

 それで、弾丸はかなり消費しているので、暴発するのは必然でしょう。

 これが、この店で死んだ7人目。暴発した銃の破片が、鉄屑となって、顔に残っていたみたいです。

 光の使途が死んだ後、普通に商売を続けるつもりが、第2王子の命令で、弾丸を献上することになった。資金が不足しているので、同じ手口を使おうとしても、銃が手元に無い。光の使途から、銃以外の武器の存在も聞いていたので、スペツナズ・ナイフという特殊な武器を購入。だが、使い方を間違え一人は、普通に殺害。この事で、衛兵に疑われる。やって来た衛兵を、スペツナズ・ナイフで殺害に成功。

 逃亡資金を得るために、最後の仕事をする。


 それが、私達だったという事ね。最初は、光の使途の脅されたみたいだけど、最後は完全に犯罪者。それに、商人なら販売後にも責任を持ってもらいたいですね。

 第2王子に販売した銃、10丁は危険と教えたいです。すぐに、使い物にならなくなりそうですが・・・。

 第2王子も、勝手に聖剣を持ち出したので、色々とやましい部分があるのでしょう。

 

 商人の処分に関しては、エメラルダに協力します。ガガガーンに渡しても良いですが、能力を知っている人物が、裏で手を回す必要があります。

 銃と弾丸だけというのは、後々面倒になます。機械油みたいなものは、この世界に無いみたいです。

 メンテナンスの知識も無いので、いずれ使えなくなるでしょう。

 加護で、複製や、時間戻しで新品にするという可能性もありますが、この男がいるだけで、銃が増える可能性があります。

 現状、この世界のシステムに突然乱入すると、余計な混乱を起こしそうです。

 女神が、殺害リストに加えた理由がわかりました。時間を戻せないので、仕方ありません。

 最後の仕事が、私達だった己の不運を呪いなさい。

 

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