第28話 欠点

「いや~昨日は大変だったね。」


部屋から出た矢先、ソフィアがクスッと笑いながら言う。

昨日の事と言えば、瞬一の部屋に3人が行った時の事だろう。

そもそも部屋に訪問してくるのがジェイルのみだと思っていた瞬一は、3人が顔を現した時点で予想外だったのだが、その後さらに予想外の事が起こったのだ。


「やめろって、また思い出すじゃねーか。」


瞬一は憂鬱そうに頭を抱える。

うん、あいつの事は忘れよう。あの忌々しい生き物は地球上に存在してはならない。


「あのたんすの中から出てきた奴だろ。」


そう、ジェイルの言った通り何がとは言わないが、奴が出てきたのだ。調理場で働く人や全世界のお母さん達が目の敵にする、漆黒の害虫が。

ちなみに、その漆黒の生物が登場した瞬間、瞬一は悲鳴を上げながら奴を凌駕する俊敏さで、部屋の外に飛び出して、ソフィアもその後から部屋を出てきた。ジェイルは2人の悲鳴がうるさかったらしく、耳を押さえていた。そして、最後に残った剣誠は、近くにあった木の棒を刀に見立てて、俊敏に動き回る漆黒の化け物を、断末魔の悲鳴を上げる隙も与えずに討伐していた。


「ジェイル。少し黙れ。」


あいつの記憶を封印するのには時間がかかる。マジでもう、勘弁して欲しい。学院内で次にあいつに遭遇したら、ホテルに泊まろう。

瞬一はそう誓った。瞬一はもともと虫嫌い、いや、虫恐怖症だが、嫌な虫ランクの上位に位置する、漆黒の生命体だったため、拒絶反応が大きいのだろう。ちなみに、ランク1位はガガンボと言う、巨大な蚊みたいな奴である。


「そうですね。もうすぐで朝食ですからデリカシーに欠けた発言です。ジェイル。」


まぁ、少し角度の違った注意だったが、ジェイルもこれ以上は言わなかった。


さあ、Let's 朝食をhave 食べましょう。breakfast.


ソフィアは、この微妙な雰囲気を払拭するように思い立って言う。


「何でいきなり英語なんだ?」

「逆だよ。ここではみんな英語を使っている。日本語を使うのは俺らくらいだぜ。」


ジェイルが瞬一の疑問に答える。


「え、何で?」

当たり前だろ。Of course,ここはアメthis is リカだぜ。America.


あーそう言えば、そうだった。入国2日目で忘れていた。あ、でもアルティミア学院は?あそこは英語と日本語をみんなが話すぞ。あと、一部は中国語やフランス語なども話せたし。


「しかし、アルティミア学院は別ですよ。日本にありますが、あそこはグローバル化に力を入れているので、日本語と英語の両方を使います。それに比べてここは、身体能力や計算力、創造力、プログラミング力などの演算処理能力といった技能面の強化を優先しているので、世界共通語である英語が取り入れられています。」


まるで瞬一の心を読んだかのように答える剣誠。


「すげーな、剣誠は。何でも知っているな。」


強い上に知識もある剣誠は瞬一と同等、または同等以上のステータスのような感じがする。


「いえいえ、記憶力が優れているだけですよ。大前提の知識がなければただの刀振ってる馬鹿者ですし、自分から物事を考える事が出来ませんから、創造力も想像力も皆無です。」


少し恥じるように、悲しげにうつむきながら言った。

確かに、自ら考える事が出来ないのは剣誠にとって、唯一の、そして最大の欠点であった。

考える事が出来ないと、事々物々じじぶつぶつに目を向けても、統計データや、その物の品質や材料などにしか意識がいかず、第一印象というものを持たない。

また、「未来の事を想像しろ」と言われても、過去のデータや最新技術などの事からこうなるだろうと言う、予測しか出来ない。

自分の希望や願望、気持ちといったものが生まれないのである。

こういう点では、剣誠は感情の薄い瞬一に似ていた。


「謙遜するなよ。逆に知識があまり無いジェイルは、奇想天外な発想を思い付くんだから。何せ、天才で完璧超人なんてやつは居ないんだから、欠点くらい誰だって持っているだろ。」


周りからみたら、天才達の集まりでしかない彼等彼女等も、みな欠点を抱えて居るのだ。と言うことを再確認させるように、言い聞かせる瞬一。


「俺のことが軽くディスられているのが気にくわねーが、確かに事実だ。」


ジェイルも瞬一の言い分に賛同の意を示す。


「そうですね。確かにそうです。とても大きな長所があればそれだけ大きな短所も有りますね。」


剣誠は納得したように自分に言い聞かせた。


何か、英語の話から飛んでシリアスな感じになってしまったな。

何でこうなったんだ?少し、話を遡源そげんさせると・・・・って俺か!

俺が無責任に褒めたのが原因か‼


「もう遅くなっちまったし、朝食を食べに食堂に行こうぜ。」


瞬一が今日2度目の、この微妙な雰囲気を払拭するように思い立って言う。


「そうだな。腹も減ってきたし。」


ジェイルもこの流れに乗っかって、瞬一と共に食堂へと歩き出す。


「あ、待ってよ置いてかないで。」


後に続いてソフィアも駆け出していく。


後に残った剣誠が、日常の1ページであるその光景に静かに楽しそうな笑みを浮かべていた。

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