第22話 悲愴

「金剛さん‼」


倒れている金剛さんに走って向かう。

明らかに出血量が多すぎて、もう助からない事は見れば分かった。


「金剛さん、起きて。、、、クソッ止血剤じゃ意味がない。」


瞬一は、あれこれとしているが金剛さんは、もう脈はかすかに動いているだけで虫の息だった。


「グルァァァ。」


戦場では、敵は待ってくれない。紫色ドーピングの影響で苦しそうにしていたギルナが立ち直る。


「ガァッ。」


介抱している瞬一にナイフが迫る。相変わらず常人を超越した身体能力だった。


「チイッ。邪魔するなよ!」


金剛さんを抱えて走るが、傷も深く十分な間合いが取れなかった。


「グルァァァッ!」


金剛さんを後ろに置いて、迎え討つ。

しかし、あいつの体力は無尽蔵むじんぞうかよ。全然さっきと変わらねーじゃん。


「これでも食らいやがれ。衝撃勁インパクト


策も無く突っ込んでくる敵に拳を食らわせる。


「グオッ。」


しかし、ギルナの体力は無尽蔵ではないようだ。先程は金剛さんの弾丸を避けたのに対して、今では瞬一の拳さえ避けきれなく、いや避けなくなっている。


「ぐぉぉぉ、、、、。」


決着はすぐに訪れた。


「グギャ、、ガッ、、グアァァァァァァァァア!」


ギルナが苦しそうに呻きうめきはじめる。

段々とギルナの見た目は変貌へんぼうしていった。目は血走り、血管は浮き出ている。皮膚は乾燥しカサカサになっていた。


「ぐあっ。グギイィィ。」


苦しそうに胸を掻き毟りむしりながら、倒れた。


「何だったんだ、こいつは。」


多分、紫色ドーピングの過剰摂取オーバードーズだったんだろう。

しかし、そんな事を考えている余裕はない。もう手遅れだと分かっているが、、、


「せめて、金剛さんをちゃんと連れて帰ろう。」


横たわった亡骸を前に、


「どうか、安らかに寂滅じゃくめつして下さい。勇猛な戦士に弔いとむらいを捧ぐ。」


静かに黙とうした。


「すみません、金剛さんをお願いします。」


後続隊員に亡骸を丁重に渡して、研究室に向かう。

結実に関する手がかりが何かしらあるはずだ。

そう希望を持って、歩を速めた。


「多分居ないだろうけどな。」


研究室前の重い扉がゆっくりと開く。

その先に見えたのは、、、、


「何なんだ、これは、いったい?」


日本語的におかしい文法になるほど、瞬一は呆然とその光景を眺めていた。

大きな、直径20mくらいのガラスの円柱に、これまた大きな紫色の球体が入っていた。それは、どうやら天井高くまで伸びていて、円柱内はギルナを狂乱状態にさせたドーピンかグで満たされていた。


「いきなりこんなの来ても、全然わかんねぇぞ。」


ひとまず、何か資料でも無いのか?

そう思って円柱に近づいた。


「ルナ計画?」


円柱の下には、そう書かれてあった。

なんだルナって。ルナティックって事か?

しかし、資料等は見つからずもぬけの殻だった。


「まぁ、いいや。あとは後続隊員に任せよう。」


何か手がかりが出てくると良いけど。と、願いながら研究室から出た。


◇ 金剛さんのお通夜

ホール内には、哀傷あいしょうした雰囲気が立ちこめていた。みんなの涙ぐむ音がひっそりとした空間に悲哀と共に滲んでいる。

自分の焼香の番が回ってくる。立ち上がって、棺に向かう。

エンゼルケアされた金剛さんの身体は、まるで敵の攻撃を受けてないかのように清潔で、綺麗だった。


(今までありがとうございます。蒼穹そうきゅうの彼方で、はたまた、輪廻転生して安らかにお過ごし下さい。)


そう念じて焼香を終える。


でも、やっぱり葬式は嫌いだ。両親の事を思い出してしまう。

沈んだ空気に同調して、気分も沈む。

やはり、この悲哀に悲痛に、哀傷に、哀悼に、哀惜に、哀切に、そして悲嘆に暮れたこの空間は好きじゃない。

何よりも、弱かった自分を思い出してしまう。

人間は悲痛に哀悼したからこそ、悲愴ひそうに振る舞なければいけない。

その方が、強くなれる。そして、何よりも亡くなった方への敬意をはらう事だから。

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