第21話 惜別

「なんだ。お前ら。」 「おもしれぇ客人だなぁ。」


2人の青年が言った。


「どうも、通りすがりの高校生です。」


なんだと言われたので、一応名乗る。あ、名乗ってはないか。


「どうも、〈惨禍さんが〉のガイナだ。」


黒髪蒼眼の一方が、魔改造されたリボルバーをくるくる回しながら答える。


「どうもぉ、〈惨劇さんげき〉のギルナでーす。」


金髪蒼眼の青年と言うよりかは少年に近いもう一方も、ナイフを両手に持ち答える。

双方ともに、容姿が似ていたので兄弟と見て間違いないだろう。

こんなに小さい子どもでも、軽々しく人を殺すなんて怖い世の中だな。殺人が起こらないかどうかで、戦々恐々していて平穏な生活なんて望めないぜ。


「余興はここまでだなっ。」


いきなりギルナが襲いかかってくる。

対応に遅れたが、ちゃんと避ける。が、、、

最初から狙いは俺ではなく金剛さんだったようだ。


「ぐっっ。」


金剛さんは、いきなり降りかかって来たナイフの刃をプロテクターを付けた右手で受ける。


「へー反応が良いよぉ。このガキ。」


どっちかと言うとお前がガキだろ。と胸中に突っ込む。


「あぁん。今ガキって思っただろ。おいっ!」


ギルナがナイフを降り投げる。

危ねっ。と思ったがまた狙いは俺ではなく金剛さんだった。


「がはっ。」


今度は防ぎきれず、金剛さんの左手に鮮血がほとばしる。


「そう言えば、こいつってシュンイチじゃない?」


俺に指を指しながらギルナがそう言った。

発音がイマイチだな。


「そうだな。お前には土産がある。」


静観視していたガイナがおもむろにスマホを取り出して、画面をこちらに見せる。

詳しく見ずとも、表示されている物が何かは分かった。


「裏切り者は抹殺した。」

「てめえ!」


そこに表示されていたのは、ハウザーの死体だった。


「君なら見覚えがあるだろう。」


ガイナが糾弾きゅうだんするように俺を問い詰める。

金剛さんがいる手前、あまり下手な事は言えない。


「知り合いか?隊長。」

「ええ、顔見知り程度ですが。」


一応、嘘ではないぞ。ギルナが嫌な笑い顔をしていたが。

てか、殺人を笑って行う奴はムカつくな。

唯一残った感情、怒りだけが沸々と起こり出てくる。


「一応、降伏勧告をするが受けるか?」


金剛さんが割って入る。


「ばっかじゃねーの。」 「愚かだ。」


同時にする返答してくる。


「じゃあ、強制的にせざるを得ない。」


一気に場の雰囲気が変わる。

アイコンタクトで、金剛さんにギルナの相手を頼む。

俺は、静観視している偉そうなガイナを潰す。


バンッ。と一撃、空を切る音。

流石に撃ってくるのは分かったけど、恐ろしいくらいの命中精度だな。少しなめてた。

血に濡れた左腕を押さえる。


「凄まじい反応速度だな。左目を狙ったはずだが。」

「こっちは避けたと思ったんだが。」


てか、左腕って骨折した方なんですけど。ああ、痛いイタイ。

金剛さんの方は、ひとまず大丈夫そうだ。硬いプロクテターの防御を潜るのに、ギルナは苦戦していた。


「よそ見している余裕が在るのか?」


うるせぇ。こっちは状況把握で忙しいんだよ。

俺に対して、余裕綽々よゆうしゃくしゃくとした態度のガイナが次々と弾丸の嵐を注ぐ。


「ああ、創惡そうあくの女神よ。我が無慈悲な攻撃をお許し下さい。」


ガイナが天に捧げる様に拝みだす。本当に余裕だな。

てか、こいつが気に喰わないのが分かった。俺は、神なんて野郎を信じていないんだよ。だから、アニミズム霊体存在主義も嫌いなんだよ。

俺は無神論者だ。


「けっ。女神とかバカな事言ってんじゃねーよ。」

「なんと愚かな。」

「空虚な有象無象を信じているお前の方が愚かなだよ。」


わざとバカにして、相手に乗らせる。

やっぱ幼いな、あいつ。


「女神の寵愛を投げ棄てると言うのか。なんと、愚かな。女神は空虚でも、有象無象でもない!」


は?神が顕現けんげんしたんだったら世紀末だな。

まぁ、神の声を聞いたとかほざくんだろうけど。


「女神はいずれ、世界を滅ぼし創り変えるだろう。」


なんとも、抽象的で曖昧な話だったため、深く考えなかった。こいつが狂信者なのだろうと。

しかし、その過ちに気づくのはもう少し後の事だった。


「ちっ。いつまでもそうやって弾丸を避けてるだけか?」


確かに、今のままでは、じり貧だ。加速アクセラレートを使っても、状況打破は難しい。しかし、この場は俺とガイナだけじゃない。


「金剛さん!アレをお願いします。」


そう言って、加速アクセラレートで金剛さんとギルナの間に割って入る。


「てめえ‼いつの間に来やがった。」


ギルナが驚き、ガイナも呆気に取られる。一瞬でも、されど一瞬。このタイムラグが隙となる。


「これでも食らえ!」


金剛さんがブラッシュバングレネードを投げる。

閃光が炸裂し、反応に遅れたガイナは、一定期間目が見えなくなる。


「おらあぁぁぁ‼」


加速アクセラレートでガイナとの間合いを一気に詰め、ラフな格好から、高速で浸透勁をくり出す。その名は、衝撃勁インパクト


「爺ちゃんから会得したばっかだったけど、上手くいったな。」


背後には、気絶したガイナが倒れていた。


「クソッ、どうなった。」


やっと閃光の被害から立ち直った、ギルナが叫ぶ。

その蒼眼が見たのは、倒れ伏した兄の姿だった。


「てっめぇぇぇ。おい!ガイナをどうしたあァァァ‼」


狂乱状態となったギルナが、金剛さんの拘束を振りほどき、ガイナのもとに行く。


「ガイナ!おい、起きろって。」


横たわった兄を支え、声を荒げる。


「おーい、聞こえてんのか?そいつまだ死んでないから。」


なだめようとしても、声が届いてないようだった。

引き剥がそうと、金剛さんがギルナに近づいた時、ギルナがおもむろにガイナのポケットから、注射器を取り出す。


その中に入っていたのは紫色の液体で、ひどく毒々しく、禍々しさまで感じた。ともかく、あの液体は危険だと本能が告げていた。


「おい、注射器を捨てろ!」


気づいた金剛さんが言うも、時すでに遅し。ギルナはニヤリと口角を上げ、注射器の中身を首筋に注入した。


「グルァァァ。」


猛獣のような獰猛どうもうな視線を向ける。どうやら、理性を失っているようだ。


「グルァァァー!」


あり得ないくらいのスピードで、ナイフが喉に向かってくる。

あの紫色の液体は、ドーピングのようなものか。


「ちっ、避けきれなかった。」


ぎりぎりの所で、刃が皮膚を掠める。。

ギルナはドーピングの効果によって、素早さや筋力などが、大幅に強化されていた。


「落ち着いて、まだ、弟君は死んでない。」


金剛さんが止めるように、呼びかける。


「ガァァァァッ!」


全然、話が聞こえておらず、ヘイトが金剛さんに向く。もしかしたら、この状態だと言語すら理解できないのかもしれない。


「ゴワゥァァァ!」


金剛さんにナイフの刃が襲いかかる。

助けに行こうとした時、いきなりギルナがこっちに向かって、体当たりをする。瞬一は、加速アクセラレート衝撃勁インパクトの反動によって受け身も取れず、壁に激突し、突き破る。


「隊長!」


金剛さんが駆け寄ろうとするが、ギルナがそれを阻止する。


「ガァッ!」「ガァッ!」「ガァァァァッ!」


ギルナがナイフの連撃を金剛さんに食らわせる。3連撃目の時、ナイフとプロクテターがガキンと激しく衝突した。

ナイフが折れ、プロクテターが砕ける。


「ちっ、後がない。」


金剛さんは、やむを得ないと考え拳銃をホルスターから外す。


「グルァァァ。」


ギルナは使えなくなったナイフを捨て、バックパックからスペアのナイフを取り出す。


「ガァァァァッ!」


ギルナは、金剛さんの回りで高速に動き、翻弄させる。


バンッ バンッと発泡するが、加速アクセラレート並みに速い動きに当たるはずもなく、、、、


「グルァァァアッ。」


ギルナのナイフが金剛さんの頸動脈を掻き切る。


「グウォ、ゴファ。」


どさりと鈍い音を残して、金剛さんが崩れ墜ちた。



「グルァァァ。」


崩れた壁の中で瞬一が意識を取り戻す。


「うっ、、、、ん、、、、。」


朦朧もうろうとする記憶をたどり、意識を失う前に過去の記憶を遡源そげんする。


「確か、誰かに突き飛ばされて、、、、!」


そこまで言って、思い出す。


「まだ、ギルナがそれに金剛さんが危ない!」


激痛に悲鳴をあげる身体に鞭を打ち、立ち上がる。


「金剛さん‼大丈夫ですか!」


掠れ声のまま、壁の向こうへ身を乗り出す。

その先に見えたのは、、、、

血にまみれた、金剛さんの死体だった。

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