第5話 強化

「以上で夏休み中の諸注意を終わります。何か質問のある生徒はいますか?」




特に質問もなく、先生の話がおわる。




「では、その他質問はしおりを参考にしてください。それでは、有意義な夏休みを過ごしてください。」




有意義ねぇ。他のクラスメートにとっては至福かもしれないが、俺にとっては地獄でしかない。なぜならば、祖父との稽古が待っているからだ。




「なあ瞬一、錦宮さんや東雲しののめさんも誘って海にいこーぜ!」


「錦宮はともかく、東雲は来るかどうか分からねーぞ。」


「そこをどーにかお願いします。」


「面白い話をしているね。僕も混ぜてくれるかな?」


そう言って現れたのは、佐々木君だった。


「まあ、いいけど。佐々木君の予定は大丈夫なの?」


「颯太でいいよ。どっちかって言うと瞬一のほうが有名だから。」


「いやいや、、、」




そんなわけねーだろと言いかけて、唖然とした。周囲で話を聞いていた人がほぼ頷いている。




(マジか)


「ごほんっ。えーっとそれはそうと、予定は開けられるのか?颯太。」


「君に名前で呼んでもらえるなんて光栄だね。あと、予定に関しては、確か日時が定まっていないんだよね?部活の方は、たぶん開けられると思うけど。」




や、やめてくれそんなまぶしい笑顔をみたらの気があるんじゃないかと勘違いされる。




「そう言えば佐々木ってバレー部だったな。確かに、佐々木の言うとおりだぜ、日時くらい決めとこうぜ。」




そう言って亮太は、せっかちに話を進めようとする。




「お盆くらいでいいか?クラゲが多いけど。こっちにも予定があって。」


「僕は大丈夫だよ。亮太君は?」


「俺はいつでもどこでも大丈夫だぜ!」




あ、言っちゃえば暇なんですね。




「正確な日時は、アリサ達の予定も聞いてから連絡するわ。」




そう言って夏の風物詩である海への旅行が計画されたのであった。





天河 玄璽げんじと書かれた表札の前に立ち、呼び鈴をならす。インターホンではなく呼び鈴だ。




「よう、やっと帰ってきたかい。」




門が開くと、そこには見慣れた顔があった。




「ああ、ただいま爺ちゃん。ところでそちらの方は?」




祖父の隣にはスーツを着た偉そうな人が2人並んでいた。




「ああ、会うのは初めてだったか。こっちが警察庁の警察庁長官、厳島 幸雄いつくしま ゆきおさん。で、こっちが警察庁特務課の課長兼、国家公安委員会の本田 忠信ほんだ ただのぶ君じゃ。」




は、ちょっとまて。


公安でも驚きなのに長官ですか、もう笑うしかないんだけど。ハハハ




「厳島さんって爺ちゃんの同級生じゃん。で、本田さんは、俺の先輩?ってことになんのか。」




「天河師範の門下生と考えるとそうだね。だけど、強さなら君の方が上かもね。」


「いやいや、ご謙遜を。」


「ところで、玄璽と瞬一君の稽古を見せてもらえるか。」




見た目も名前も怖そうな厳島さんが尋ねてきた。




「ああ、ええよ。型合わせじゃけど、しかと見ときぃ。」




そう言って祖父は着替えに行ってしまった。




「それじゃ、俺も準備してきます。」




居たたまれなくなって、その場から去った。





「準備は出来たか。」




いかにも武人です。っていう雰囲気をかもし出している祖父が、構えた。


「お手柔らかにな。」




そう答え俺も構えの姿勢に入る。




「忠信っ。掛け声を。」


「うっす。では、双方構えて。 、、、、、始め!」




キンッと空気が張り詰め、緊張が走る。互いに見合って動かない。両者共に、相手のを捉えようとしているのだ。


とても長く感じる、一刻が過ぎ、先に動いたのは、瞬一だった。




「はあっ!」


体重移動によって繰り出された拳を、玄璽は腰を低く構えて手のひらで受けた。


パァン。乾いた音が木霊する。




「ちっ、浅いか。」




そう言って瞬一は、バックステップ式の加速アクセラレートで間合いをとる。




「こんどは、こっちからじゃ。」




縮地法によって、一気に間合いを詰めた玄璽は緩やかなモーションから、鋭いインパクトを繰り出す。




「うおっ、ヤバい。」




腕をクロスにして、防御姿勢をとるが間に合わない。




「ぐふぉっ。」




瞬一は後ろへ吹っ飛ばされた。




発勁はっけいかよ。防御しても意味ねーし。」


「ふはは、それで終わりか。」


「いやまだだね。」




そう言って立ち上がると、低い姿勢を取り、脚に力を込める。


次の瞬間、瞬一が大きく跳躍した。


それに対し玄璽は、脚を大きく開き、腕を大きく振りかぶる。




「はーあっ!」 「ふんっ。」




瞬一の、重力に基づく位置エネルギーと、落下速度による運動エネルギーが加わった、重い一撃と玄璽の、高速体重移動による浸透勁しんとうけいがぶつかった。


空気の振動が波となって、辺りを駆け巡る。


勝負の結果は、




「いててっ。やっぱ強いな。」




玄璽が勝ったまさった





「凄い迫力ですね。長官。」


「ああ、とても人間わざとは思えない。


どうだ本田、あいつを特務課に入れてみないか。」


「大丈夫なのですか。彼はまだ15ですよ。」


「特務課なら、問題はない。あそこは、完全実力主義だからな。」


「長官がいうなら。少し交渉してみます。」





「あー。さっぱりした。やっぱ稽古の後のシャワーって良いな。」


「瞬一君、ちょっと良いか?話があるんだが。」




そう言って声をかけて来たのは、本田さん?だったはずだ。




「はい、別に構いませんが。」


(面倒くさそうだな。)


「実は、君に特務課に入らないか、誘いに来たんだ。」




Why? どうしてそうなる。




「なぜ?って顔しているね。理由は長官が目をつけたからだよ。どうやら君は、頭も良いらしいじゃないか。」


(えー絶対いやなんですけど。超面倒くさいんですけど。)




でも、ドミニオンの手がかりが掴めるかも知れないしなあ。




「条件付きでなら良いですよ。」

「よし。なんでも聞こう。」




いやいや、まだ何も言ってないのに了承して大丈夫?




「えーっと、条件はドミニオンのデータ全て見せてくれることと、ドミニオンの捜索の権限を僕にくれることです。」


「ドミニオンについては、あまりに知られていないが、力を尽くそう。あと、捜索の権限については補佐を着ければ、許可が出ると思う。君の妹さんの件は知っているから、尽力しよう。」

「分かりました。ありがとうございます。」


そんなこんなで、後に特殊精鋭部隊〈蓋世がいせい〉として知られる部隊が組織された。


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