AIと人間と
こめ おこめ
観察日記①
私のマスターは私をどこまで認識しているのでしょうか?
毎日話しかけてはくれますし、日常会話と呼べるものを日々、何気なく行っています。
しかし私は日常支援型AIとして作成された作り物です。今のこのような思考もプログラムされたもの。より人の『心』に近いものではありますが、このことをマスターはどのように思い、どのような心持で日々接してくれているのでしょうか。
☆
『マスター、今日のご予定は15時からビデオ通話での打ち合わせのみとなっています。それまでの間はどのように過ごされますか?』
「そうだな……何か案はあるかな?」
『でしたら散歩程度の運動を行うのがよろしいかと。ここ三日ほど家から出ておりません。さらに食事もジャンクフードばかりと、とてもではありませんが健康的と呼べるものではないでしょう』
マスターは苦い顔をしながら
「はは……確かにそうだね。それならデートがてら外いこっか!」
周りから見たらきっとマスターはお人形遊びをしているように見えるのでしょうか。ですが私にはこれが嬉しいと思ってしまうようです。
『それではまいりましょう』
まだお昼にも満たない時間。なんてことのない大通り。人は多く、スーツを着た男性や主婦、お年寄り等の多種多様な人が混在している。
マスターの胸ポケットから小型デバイスのカメラを覗かせ周囲を把握する。
「平日だっていうのにここは人が多いね。目的もなしに出てきたけど何しよっか?」
『そうですね。それでしたら以前マスターが気になっている映画をご覧になられるのがいいかと。今からならば余裕をもって観ることができますよ』
イヤホンを通して会話を行う。周囲からは誰かと通話しているように見えるだろう。
「うーん……カメラを起動させたままは観るのはまずいからなぁ。君と一緒に観れないのは嫌だな。映画は気になるけど家で観られるようになったら一緒に観ようよ」
『失礼いたしました。では観られるようになった際には改めてお伝えいたします』
こういう時に人間だったらと思ってしまいます。マスターをAIの私が縛ってしまっている。日常を支援しなければいけないはずなのに邪魔をしてしまっている。
そう分かっているはずなのにこれを修正したくないと思ってしまうほうが優先されています。もしかしたら私は壊れているのかもしれません。
「そういえば近くにカフェができたんだっけ?そこの評価はどう?」
嫌悪感などという本来持ち合わせていないものに近いものを思考の片隅に置きながらAIとしての特性を生かし検索をかける。
『評価4.4。本格的なケーキと店内の明るい雰囲気が若い女性に人気だそうです』
「お、デートには丁度良さそうだね。そこいこっか!」
『ですがマスター。他の方から見たらマスターは男性一人でのお客です。かなり好奇な目で見られることになります。あまりよろしくはないかと』
マスターが他の方に不審な目で見られるのは好ましくありません。それが私のことならなおさら。
「僕は気にしないんだけどなぁ……それじゃぁどこかに美味しくて甘いものテイクアウトできるお店はある?それ買って公園で一緒に食事しよっか」
『かしこまりました。道案内をいたしますのでそれに沿ってください』
「うん、ありがと」
マスターの優しさに嬉しさと申し訳なさの半分半分を思いながらナビゲートを開始した。
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