神殺しの黒騎士~神の生け贄にされた唯一の妹のために俺は黒き鎧を身に纏い復讐する~
結城辰也
第一章 黒騎士として
第1話 プロローグ
俺と妹イリアは奴隷だ。
親はもうとっくの昔に他界している。
記憶もないからかなり昔だろう。
でも俺には唯一の妹イリアがいる。
俺は――妹イリアだけが取り柄なんだ。
俺から見ても妹イリアはだれにも負けないくらいに美しい。
さすがは俺の自慢だ。これなら奴隷を先に卒業するのは妹イリアかも知れない。
期待に胸を膨らませ俺は妹イリアが幸せになるための夢を見ていた。
待っていろよな、イリア。兄ちゃんが頑張ってお前を幸せにしてやるからな。
本当は奴隷として働くので精一杯だけど夢くらいは見てもいいよな。
「さてと、今日の
裏庭での薪割が完了した。あとは表玄関に行ってイリアと合流するだけだ。
裏庭から表玄関に辿り着いたらなんだか騒がしいことになっていた。
俺とイリアを奴隷としている家主が凄く相手に対して何度も頭を下げていた。
俺は何事だと思い場に入るとそこにはイリアもいた。なんでだ?
「は! 直ちにイリアを支度させますので!」
え? なんだって? どういうことだよ? おっさん?
「うむ。神託の儀で聖女に選ばれたのだ。早くするがいい」
嘘だろ。思わず俺は斧を地面に落とした。鈍い音がしたがそれよりも――
「うむ? その子は?」
「おい! おっさん! 本当か! イリアが聖女に選ばれたって!」
あ。つい勢いに身を任せてしまった。それよりも凄いことじゃないのか。
「こら! サイラス! お前はなんという無礼なことを!」
おっさんが言うけど聖女は凄いことじゃないのか。ああ。神様。有難う。
「なぁ? あんた」
「うむ?」
ここは言わないと、絶対に。だってイリアが奴隷から抜け出せれるいい機会だ。
「妹のこと……頼みます」
なんて拙い言葉なんだ。はぁ。これじゃなにが言いたいのかが解らない。
「そうか。君がイリアの兄か。ああ。大事に扱うよ」
俺は有頂天になっていた。だって唯一の妹イリアが一気に身分の高い存在に。
別れのときは笑顔だけで見送るつもりが大いに泣き叫んだ。
こうして最愛にして唯一の妹イリアはなんとか城に連れていかれた。
だがその日の夕方――
「聞いたか。イリアちゃん。神の生け贄にされに連れていかれたんだろ?」
「だろうな。くそ! これが……あいつらのやり方かよ!」
「残念だが……今日の内に亡くなったかもな。イリアちゃん」
え? なんだよ? それ? 難しいことは解らない。でも亡くなったは解った。
嘘だろ? 俺は……どんな勘違いを? ひぃ!? ああ!? ああああああ!?
この晩。俺はひたすらに後悔した。懺悔もした。それでも妹は帰ってこない。
なんてことを俺はしてしまったんだ、あんなに笑顔で妹は連れていかれたのに。
気付いた時には次の日になっていた。心配しに村人がくるほどに俺は叫んだ。
だけど気配を感じた俺は咲き叫ぶのをやめ成り代わらぬ振りで村人の前に出た。
「おい! お前! その髪」
「なんてことだい。一晩で人はこんなにも変わるものなのかい?」
「白くなってやがる、髪色が」
なんでもいい。色が白になっても妹はもう戻らない。帰ってこないんだ。
「お、おい! サイラス! なんかお前に用があるって言っている団体がきたぞ!」
え? なにを言っているのかが解らない。だれ? なんだ? 黒い集団?
「あ、あいつがサイラスです!」
「おお! あの子がサイラス君か。有難う」
だれ? 俺に黒い集団と付き合う切っ掛けはない。
俺の名前は言った黒い鎧の男が近づいてきては立ち止まった。
「サイラス君。君は妹のために復讐をするつもりはないかね」
「え?」
「おほん。話は知っている。君の妹は本当に残念だった。だがそれでいいのかね」
なんなんだ、この人は。名乗らずに一方的に。復讐が出来るのならしたい。
「いい訳がない。絶対に許さない」
「ならば一緒にくるといい。おい!」
目の前にいる黒い鎧の男はよそ見をしだれかに声を掛けた。
すると――女黒騎士が同じような黒い鎧と黒い篭手を渡した。
「これは黒い鎧に黒い篭手だ。これを君にあげよう」
俺はもう既に迷うことなく受け取った。だがそこに剣がなかった。
「大丈夫だ。剣の代わりはこの黒い篭手で補ってくれ。いわゆる魔力剣だ」
なにを言っているのかが解らない。でも剣の代わりらへんは解った。
「ダラス隊長! 私が補足を! 宙に出現させる剣は魔力で構築されています!」
あ。そう言えば女黒騎士も剣を装着していない。あ! そういうことか!
つまりこの黒い篭手から魔力剣なる物を出現させろということか!
「普通に使ってもいいがな。基本は神殺しの時に使うのだ」
「え? 神殺し?」
「そうだ。いずれ対峙するであろう最後の敵――それが深淵の神だ」
深淵? なんだが凄そうな言葉だ。
「憎いのだろう? ならば撃ち滅ぼせばいい。君の手で」
「俺が……神を殺す?」
「そうだ。君には資格がある。どうだ? 一緒に撃ち滅ぼしに行かないか」
「俺は……もう独りがいいです」
「無理はさせない。さぁ着替えよう。サイラス君。さすれば君の復讐の始まりだ」
こうして俺はどこにも属さないで黒き鎧を身に纏い神への復讐を誓った。
全ては最愛にして唯一の妹を奪った神への反逆。イリアの無念を晴らさないと。
俺に力をくれたのは神滅の騎士団だった。これで俺は今日にでも旅に出れる。
心に火を燃やし深淵の神と闘うために俺はどんどん突き進もうとしていた。
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