第2話 荒御魂、恐るべし

「ど、どうなってんだ!!? 身体の傷も無いし、服は着物になってるし……」


 いつの間にか、俺はネイビーの着物姿になっていた。


 高瑞津国たかみづのくにのことが描かれた絵本で見た縁側エンガワ。そこに座れ、と勧められた。


「まぁ、そう驚くな。とりあえず、異界の者ならば、紅茶の方が馴染み深ろう。飲んで落ち着きたまえ」


 パッ、パンッ──!

 二度手を叩いただけで、何にもねぇ所から紅茶と小さめの丸机を出しやがった!?

 流石は神格者だと思いつつ、紅茶を啜りながら景色を眺めれば、不思議と心が安らぐ。


「庭、綺麗だと思う。良く手入れがされてんな」


 大小様々な植物は、人々の管理された美学かもしれねぇ。それでも尚、新しい可能性を見出していた。


「ほう、お主はこの景趣けいしゅがわかるか。ふむ、可愛い再従兄弟はとこの後輩とあらば死をも超越する手助けをせんとな』


 スサノオと名乗ったこの神は憧れの人、マサオミさんの大叔父だと語った。マサオミさんが神ならば、あの強さは納得出来る。


「あ、そうだ。マサオミさんが神って⋯⋯本当なんすか!?」


 スサノオさんは困ったように頭を掻いた。


「困った奴だ。ぬしは猜疑心さいぎしんが強いぞ。まことと言っておろう? 我が姉君の孫であるからな」


 彼から一瞬、威圧感のようなものが放たれ、認識が一変した。


(なんか、書き換えたような⋯⋯?)


 ま、良いや。ホントに神の一族出身とか、やっぱスゲェわ、雅臣さんって。


「それで、さっき言ってた代役とは?」


 俺の質問に対してニカッと笑った彼は、説明を始めた。


「アーカッーハーー!! いやなに、儂も歳だからな、己が肉体を誰かに預けてみるのも悪くはないと思ったのだ。だから実験をしようというわけよ。お主は記念すべき一人目となる」


 ……なんだそれ。

 昔はいけすかねぇ人間より、上位に君臨する神々を毛嫌いこそしていた。

 だが、いよいよ変なことを言う神がいれば、不快感を通り越して苦笑いが出てきた。


 やはり神々の考えることは、人智を越えていやがる。理解に限度があるだろうな。


「ふむ、そう言うでない。儂はあのような死に方をしたお主を放っとけなかった。強くなっていずれ、世界を救いたいのだな?」


 こ、心を読まれただと!?

 ──いや、神だから何らおかしくない。いちいち驚いてたら、心がもたねぇ。


「スサノオさん、良く知ってるっすね。時が来たら、一緒に世界を救う──そう、約束したんで」


「自信に満ちた良い表情だ。これからやる憑依転生は儂の日常を生活すること。もちろんそちらにも利点はある」


「その利点とは?」


「儂の身体に憑依するとな、神の力──荒御魂あらみたまに影響を受けて神々の仲間入りが出来るぞ」


 ブフーーッ!? ごほっ、ごほっ!  紅茶を飲んでいる途中で聞いたから吹いたわ! てか、神になれんの!!?

 やっぱりマサオミさんの一族半端ねぇ⋯⋯!


「き、気管に入った。うえっ、ゲホッ」


 心配そうにスサノオさんがハンカチを用意して背中を撫でてくれた。

 さーせん。


「大丈夫か?」


「大丈夫っす」


「生き急ぐなよ。他にも特典があってな、箇条書きで見せよう」


 スサノオさんから見せて貰ったエリュトリオンの言葉で書かれた荒御魂に触れた憑依特典によると──。


───────────────────────

〜儂(スサノオ)に憑依して生まれ変わろう作戦〜


※基礎は教えるが、自分で体得しろ


◎半神として生まれ変わる

神力しんりきや魔力の超上昇

◎高い技能の剣術

◎海や水、氷を自在に操れる

◎蛇などの身体が長い生物に対して、特効効果を得る(ドラゴンも該当)

◎海の生物と仲良くなる

◎八重垣を出現させて己の身を守る

◎人間の女性と共にいると、能力が向上する

◎酒に強くなる

◎縁結び(絆と縁が深まると力が増大する)

◎良縁成就(自身、他人の運命の人が誰なのか、大体わかる)


◎夫婦円満(男女ペアパーティーだと能力向上)

◎子授(子供に好かれやすくなる)

◎安産(妊娠しているのか一目でわかる、流産しないように加護を授けられる)

◎無病息災(病気で死なない。老衰の死のみ適用)

◎厄除け(自身及び周囲50mは呪いが効かない。もしくは弱体化。不意打ちが効かない)

◎厄払い(呪いにかかった者をはねのけ、祝福へと転換する)


───────────────────────



 ……これは豪華なことだ。雅臣さんに近付く為には、同じ神となってその高みを目指さねば。


「如何だろうか? お主に問う。永き時を生きる覚悟はあるか? あと、敬語は使うように」


「もちろんっす。お願いしますっ!」

「それで良し。数日間の憑依転生体験ののち、エリュトリオンに帰るという形式を取ろう。流石に今日というのは精神がもたないところがあるからな。明日にしよう」

「わっかりましたっ!」


 精神がもたない……となると、俺は確かに死んだ。これは紛れもない事実。


 そんで、スサノオさんがこの新しい身体をくれて精神が定着するまで、時間がかかるというわけか。


「お主の予想は合っておる」


「あのー、ローヴェンバッハは、どこに?」


「あの芦毛あしげの馬は中々良い性格だったからな、気に入って祝福をつけておいた。お主ら“死の運び屋”とゆらにやられたんだろう?」


「はい、奴に不意打ちを受けたっす」


「とても酷い傷だったぞ。治すのもお主以上にかかるもんだから、種族を神馬族に昇格しておいたぞ。念のため、血統書を書き直したのだが、見るか?」


 半ば強引に引き取ったローヴェンバッハであるが、馬だけに馬も合うし、これから長い付き合いになると思っていたからありがたてぇっす、スサノオさん!


「ほれ」


 ひょえぇぇぇえぇぇぇぇ!?

 受け取ったは良いものの、これまたとんでもねぇ血統書だった。



───────────────────────

     ユートリアム家 血統書


 文献を調べると、ユートリアム家は由緒ある歴代の英雄やイカイビトお抱えの馬の家系でした。

 気性が荒いのも、背中に乗る主を見定めるほどの知能の高さがあるというわけなのです。


        文・スサノオ様直属の調教師より



 名前:ローヴェンバッハ・ユートリアム

  親:ラグニエル、サーヤント

 性別:オス

 種族:神馬族(親も神馬族に進完了、その祖先も16等親まで蘇生後、神馬族に進化完了)


 特性:六属性変化、不老長寿、不意打ち無効、空中移動、超自己治癒、知能の発達、言葉を更に理解し、たまに喋る


 性格:気が強い、勇敢

 年齢:12歳

 職業:黄泉の神馬隊・総隊長


───────────────────────


 いやいやいや、冗談だろっ!?

 何この一杯の特性……。十六等親まで蘇生してるし。オレ手に終えねえぜ。

 あと、この職業はなんだろうか?


「黄泉の国で数年修行し、馬の中の馬になったようだな」


「神の力、すっげぇぇぇ……」


「大した事ではない。ぬしも、じきに使いこなせるようになる。今日は休まれよ」


 そう言ってスサノオさんは柏手を三つすると、配下らしき女性が現れた。


「失礼致します。この方は?」


「雅臣の後輩、ヴィセンテ殿だ。迷い人だが、丁重にもてなせ。客間を使って良い」


「はっ、わかりました。ヴィセンテ様、こちらへ」


 キレイなねーちゃんに案内され、部屋へと進む。神々の暮らしって、どんな感じなんだろうか?


 明日が待ち遠しい。

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