スサノオ様憑依転生事件 from『彩筆の万象記』シリーズ
銀河革変/カーウェン・ギンガ
第1話 オレはヴィセンテだったはず……
──全ての視界が赤かった。
俺は死んでも、デュラハンに一矢報いるまでは⋯⋯まだ終わりじゃねぇ!
◇◇◇
俺はヴィセンテ・ガトニス。
かつて東郷雅臣さんにケンカをふっかけ、見事に負けてしまった男だ。
いまでは彼をマサオミさんと呼んでいる。そうなるには六聖神よりも怖い異界の神様の
時は遡り、雅臣さんに負けて数日経った日のこと。
俺は負けてから日が経つにつれて尊敬の念を持ち始めていた。まず、オレがあの人に抱いた印象。
(規格外だろ──!)
あんなに強い人は見たことねぇ!!
オレが気絶する直前で鎧の隙間を縫って、確かにもう一撃与えたのだが、見事に木剣が折れてしまったのを覚えている。
最後に覚えているのは⋯⋯まるで、“星々を叩く感触”》》で、反動が発生。両腕が、粉砕骨折したことだ。
シノ婆に治してもらったから、大事は無かったものの、あの凄みと緊張感、
だからこそ、オレは決意する。
──雅臣さんを、追いかけることを。
それからの決断は早かった。
装備一式を見直すには、加工費が必要。
(“狂狼”なんざ、今日でおさらばだ。あばよ、過去のオレ!)
大金を稼ぐため、ナゴルア山脈に住まう群れに背き、反逆したはぐれ竜を命懸けで討伐へ。
ほうぼうの体で自宅に変える毎日。
治癒魔法をも断り、回復薬は自作した。
「うっえ、不味ッ!!? 何で、こうなりやがった」
レシピ通りに作ったはずなのに、なぜゲロ味なんだ? いや、入れるのを忘れてるやつがあったのか。そりゃ、不味くなる。
頭は悪ィが、それも諦めずに努力して克服してやる。段々と学びが楽しくなってきた頃合いだ。
何度だって倒れた。何度だって死にかけた。
「どうしてだ、どうして届かねぇ!」
オレは吐血で汚れた手に、空を掴む。になの
身体はとっくに限界を迎えている。なぁ、アンタはどうやってたどり着いたんだ。
「敵を燃やし尽くす力、欲しいなぁ」
彼の凄み……神気だったはず。アレに触れたら、誰だって縮み上がる。
だが、その深奥に、底知れぬ死を越えた者の強さを──確かに感じた。
「ガルゥゥゥ⋯⋯!」
「死にかけの人間ゴブ⋯⋯!」
「邪神因子に呑まれた
ポーションで血を洗い流して、切り結ぶ。
先日もまた、死に近付くことで、新たな強さを手に入れた。
冒険者ギルド・シャルトゥワ支部に帰ってくると、心配そうに支部長が話しかける。
「気をつけるんじゃの」
「わかってるっつーの、シノ
今日は夜狩りだ。【宵の首無し女王】と称されるA級魔物、デュラハンを倒す日である。
馬の種族柄、臆病な奴が多い。だが、珍しく気が強いと噂の暴れ馬であるローヴェンバッハを駆り、デュラハンの元を目指す。
数十分後、遂に見つけた。
なんという奇怪なナリだ。首無し馬のコシュタ・バワーに乗り、当のデュラハンも首はなく、右手に長髪の頭を抱えている。
左手に持つ片手剣は常に血が滴っており、不気味でしかねぇ。
「これが“死の運び屋”……」
常に先回りするその強さと速さに、倒せた者は少ない。 だが、オレも何もしなかったというわけじゃねぇ!
今は青葉のそよ風亭で隠居を貫いているクタラ戦役の功労者、シャローズおばに教導を受けたんだ!
光属性と生(聖)属性の魔法を無詠唱かつ威力上昇の秘術を習得しドワーフの国、ドワルディアに赴いた。
そして、ディルク王と煌炎神アウロギに飛び込み、直談判をすること数日。燃やせぬ物はない神の炎たる〘黒煌炎〙を纏う神器、⟬
あいつに一騎討ちで決める!
「おいっ、首無しクソアマァ! オメエなんて一撃だぁぁぁぁぁ!! 魔剣流・異端派:〘
「ギャャャピャアァァアァァァァァ!!? 」
黒き夜に白と紫の光の柱が立った。
聞いたこともない悲鳴を上げながら、抱えていた頭を落とすデュラハン。
「キッヒッヒッ……マダダ!」
ベルトに装着していた鞭を取り出して、オレの目を狙おうとしていたが、
だが、デュラハンも負けまいと燃え尽きる寸前の鞭で冷風を起こして鎮火させようとしたが、無駄だった。
「ナゼ消エン、熱イ、熱ィィイィィィ!!?」
黒煌炎は勢いを止めることなく渦巻き、聖光が奴の身体を包みこんで、浄化し続けた。
「はぁ、はぁ……やったか!?」
因みにこの時のオレは、この発言をフラグというのを知らなかった。まんまと、デュラハンにやってのけられたのである。
「ユルサン!
「あーはっはっはっ! オレの踏み台となり、剣の錆となれッ!」
決め台詞を吐き捨てて燃やし尽くされるビッチデュラハンの断末魔を心地よく聞きながら、俺は両手を握り締めて歓喜のガッツポーズを取り、同じくクールベットをして喜ぶローヴェンバッハだったが……。
カァーン、カァーン──
「おい、なんだこの鐘の音はっ!!?」
それは、死の宣告の音に近かった。
──っ!
どのような原理で浮いているのか分からねぇが、頭上に血濡れた鐘が月夜の光に怪しく照らされて、脳天に血の雫が落ちた事に気付き、上を向く。
だが、気づいた時すでに遅し。
次の瞬間、茨の鞭が全身を巻き付けて固定。疾すぎて回避不可で、体内から無数の剣と鎌が──オレを滅多刺しに!
「アァァァァァァァ!!!」
騎乗していたローヴェンバッハもろとも、深い切創だらけとなって死したのであった。
ぐ、ぐふッ! これが死なのか……?
ずっと、痛い。絶え間無い痛みが全身を走り回り、息も苦しく、肺を切られたからか、満足に呼吸も出来ない。
これが嫌だと考えると、今度は気分が楽になってきた。痛みを感じなくなり、数分くらい続いて考えるのが嫌になってきた。
次に浮かんだのは走馬灯だった。
お袋に迷惑ばかりかけていて、家出して悪さばかりしていたら、心配と絶望で酒に溺れて中毒で死んでしまった。
あの時は親なんかクソくらえと思っていたが、今さらながら後悔してる。
やっぱ、バカなんだな、俺。
それから金稼ぎの為に冒険者になり、威力重視の魔剣流を習得。ナメ腐った態度で、B級冒険者までのし上がり、雅臣さんに決闘かけて倒れた。
それがあの日のことだ。あれからマサオミさんは憧れへと変わったんだ。オレと真逆の存在だったからだというのも理由の一つでもある。
己を変える為、難易度の高いクエストや特務を受け続けて、シノ婆に「死に急ぐんじゃないよ」と忠告されたことを思い出した。
はっ。やっぱバカじゃん、オレって奴は。
『──聞こえるか、若造よ』
どこからか、幻聴が聞こえる。
何かの本で読んだが、死んだ時に現れる──冥府への導きの声か?
「アァ、聞こえてる」
『生憎、幻聴でもないし、天への導き声でもない』
「じゃあ、誰なんだよ?」
『まぁ、目を覚ましてみるが良い』
渋みがあって心を落ち着かせる声。
流石に胡散臭いとは思いながら、こんな状況でも声をかけてくる奴に、オレは興味が湧いた。
「はっ。オレに声をかけてくるたぁ⋯⋯どんな奴だ?」
目を覚ましてみると和風の国、
眼前には、黒髪黒目に、装束という日ノ本の神々の衣装を纏う男前なオッサン。
「アンタ、まさかよ⋯⋯!?」
『──左様。
「はぁァァァァァ!? マサオミさんの大叔父ィィィ!!? え、え? マサオミさんって神様だったってことかァァァァ!!?」
これが雅臣さんの大叔父、スサノオ様との出会いであり、憑依体験記の始まりとなる。
俺の進化の扉は開かれたのだ。
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