スサノオ様憑依転生事件 from『冠絶偉彩の画家、異世界を描き翔ける!』シリーズ

銀河革変

第1話 オレはヴィセンテだったはず……

 俺はヴィセンテ・ガトニス。

 かつてマサオミさんにケンカをふっかけ、見事に負けてしまった男だ。いまでは彼をマサオミさんと呼んでいる。そうなるには六聖神よりも怖い異界の神様の教育オイタと不思議な体験があったのだ……。


 時は遡り、マサオミに負けて数日経った日のこと。

 俺は負けてから日が経つにつれて尊敬の念を持ち始めていた。まず、オレがあの人に抱いた印象。



 規格外だ──!



 あんなに強い人は見たことねぇ!!

 オレが気絶する直前で鎧の隙間を縫って、確かにもう一撃与えたのだが、見事に木剣が折れてしまったのを覚えている。


 最後に覚えているのは、で衝撃が反動して両腕が粉砕骨折したことだ。


 シノ婆に治してもらったから大事無かったものの、あの凄みと緊張感、おごらぬ強さは忘れることが出来なかった。

 だからこそ、オレは決意する。



 マサオミさんを追いかけることを。



 それからの決断は早かった。

 大金を稼ぐためにナゴルア山脈に住まうドラゴンを命懸けで倒し、ほうぼうの体で帰りつき、治癒魔法をも断って回復するためのポーションは自作した。


「うっえ、不味ッ!!?」


 レシピ通りに作ったはずなのになぜゲロ味なんだ?  いや、入れるのを忘れてるやつがあったのか。そりゃ、不味くなる。


 

 頭は悪ィが、それも努力して諦めねぇ。

 何度だって倒れた。何度だって死にかけた。

 

「どうしてだ、どうして届かん」

 

 オレは吐血で汚れた手で空を摑む。

 身体はとっくに限界を迎えている。なぁ、マサオミさん、アンタはどうやってたどり着いたんだ。


「敵を燃やし尽くす力、欲しいなぁ」


 彼の凄み……神気と呼称しようか、アレに触れたら誰だって縮み上がる。だが、その最奥に底知れぬ死を越えた強さを感じた。


「ガルゥゥゥ!」

「死にかけの人間ゴブ!」

「真っ黒な子鬼族ゴブリン犬人族コボルト……血の匂いにつられやがったか」


 ポーションで血を洗い流して、切り結ぶ。

 先日もまた、死に近付くことで新たな強さを手に入れた。


「気をつけるんじゃの」

「わかってるっつーの、シノばぁ。準備は万全にしてる」


 今日は夜狩りだ。【宵の首無し女王】と称されるA級魔物、デュラハンを倒す日である。


 馬の種族柄、臆病な奴が多い。だが、珍しく気が強いと噂の暴れ馬であるローヴェンバッハを駆りデュラハンの元を目指す。


 数十分後、遂に見つけた。


 なんという奇怪なナリだ。首無し馬のコシュタ・バワーに乗り、当のデュラハンも首はなく、右手に長髪の頭を抱えている。

 左手に持つ片手剣は常に血が滴っており、不気味でしかねぇ。


「これが“死の運び屋”……」


 常に先回りするその強さと速さに倒せた者は少ない。 だが、オレも何もしなかったというわけじゃねぇ!


 今は青葉のそよ風亭で隠居を貫いているクタラ戦役の功労者、シャローズおばに教導を受けたんだ!

 光属性と生(聖)属性の魔法を無詠唱かつ威力上昇の秘術を習得しドワーフの国、ドワルディアに赴いた。


 そして、ディルク王と煌炎神アウロギに飛び込み直談判をして、燃やせぬ物はない神の炎たる〘黒煌炎〙を纏う神器、⟬燠燿尊剣しゃくようそんけんメルガノッサ⟭を作って貰ったのだから!


 あいつに一騎討ちで決める!



「おいっ、首無しクソアマァ! オメエなんて一撃だぁぁぁぁぁ!! 魔剣流・異端派:〘光焰こうあん聖魔撃せいまげき〙──!!」

「ギャャャピャアァァアァァァァァ!!? 」


 一刀両断いっとうりょうだん

 黒き夜に白と紫の光の柱が立った。

 聞いたこともない悲鳴を上げながら、抱えていた頭を落とすデュラハン。


「キッヒッヒッ……マダダ!」


 ベルトに装着していた鞭を取り出して、オレの目を狙おうとしていたが、甘いな。剣の〘黒煌炎〙が炭になるまで焼き付くしていく──!


 だが、デュラハンも負けまいと燃え尽きる寸前の鞭で冷風を起こして鎮火させようとしたが、無駄だった。


「ナゼ消エナイ、熱イ、熱ィィイィィィ!!?」


 黒煌炎は勢いを止めることなく加速しながら渦巻き、聖光が奴の身体を包みこんで、浄化し続けた。


「はぁ、はぁ……やったか!?」


 因みにこの時のオレはこの言葉をフラグというのを知らなかった。まんまと巨乳デュラハンにやってのけられたのである。


「ユ、ユルサン! 餓鬼ガキガァァァーー!! 」

「あーはっはっはっ! オレの踏み台となり、剣の錆となれッ!」


 決め台詞を吐き捨てて燃やし尽くされるビッチデュラハンの断末魔を心地よく聞きながら、俺は両手を握り締めて歓喜のガッツポーズを取り、同じくクールベットをして喜ぶローヴェンバッハだったが……。


 カァーン、カァーン──


「おい、なんだこの鐘の音はっ!!?」


 それは死の宣告の音に近かった。


 っ! どのような原理で浮いているのかわからないが頭上に血濡れた鐘が月夜の光に怪しく照らされて、脳天に血の雫が落ちた事に気付き、上を向く。

 だが、気づいた時すでに遅し。


 次の瞬間、茨の鞭が全身を巻き付けて固定され、体内から無数の剣と鎌がオレを刺し尽くし、騎乗していたローヴェンバッハもろとも深い切創だらけとなって死したのであった。


 ぐ、ぐふッ! これが死なのか……?

 ずっと、痛い。絶え間無い痛みが全身を走り回り、息も苦しく、肺を切られたからか、満足に呼吸も出来ない。これが嫌だと考えると今度は楽になってきた。痛みを感じなくなり、快楽物質やら興奮物質などが回っているんだろうな。数分くらい続いて考えるのが嫌になってきた。


 次に浮かんだのは走馬灯だった。


 お袋に迷惑ばかりかけていて、家出して悪さばかりしていたら心配と絶望で酒に溺れて中毒で死んでしまった。

 あの時は親なんかクソくらえと思っていたが、今さらながら後悔してる。

やっぱ、バカなんだな、俺。


 それから金稼ぎの為に冒険者になり、威力重視の魔剣流を習得してナメ腐った態度でB級までのし上がり、マサオミさんに決闘かけて倒れた。


 それがあの日のことだ。あれからマサオミさんは憧れへと変わったんだ。オレと真逆の存在だったからだというのも理由の一つでもある。

 己を変える為、難易度の高いクエストや特務を受け続けて、シノ婆に「死に急ぐんじゃないよ」と忠告されたことを思い出した。



 はっ。やっぱバカじゃん、オレって奴は。



『聞こえるか、若造よ』


 何処からか幻聴が聞こえる。

 何かの本で読んだが、死んだ時に現れる天への導きの声か?


「聞こえてる」

『うむ、残念ながら幻聴でもないし、天への導き声でもない』

「じゃあ、誰なんだよ?」

『まぁ、目を覚ましてみるが良い』


 渋みがあって心を落ち着かせる声に胡散臭いとは思いながら、こんな状況でも声をかけてくる奴に興味が優先した。


「はっ。オレに声をかけてくるとはどんな奴だ?」


 目を覚ましてみるとシノ婆が寝殿造しんでんづくりと呼んでいた不思議な建物に座り込んでいて、眼前には装束というシノ婆の故郷の神々が着ているという衣装を着た男前なおじさんがいた。


わし建速須佐之男命スサノオノミコト神代七代かみしろななよの一柱であり、東郷雅臣の大叔父である。若造よ、儂の代役をやってみないか?』

「ははははあぁぁぁぁ!? マサオミさんの大叔父!? え、え? マサオミさんって神様だったのぉぉぉぉぉぉーー!? 」


 これがマサオミさんの大叔父、スサノオ様との出会いであり、憑依体験記の始まりとなる。


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