植物と私の365日
じゅん先輩
一日目:ある日突然の出会い
植物を育てるということに、30年以上生きてきて興味を持ったことは一度もなかった。ベランダが広いこの家に引っ越してきて、私は軽い気持ちでハーブを育てた。あっという間に生い茂ったカモミールを満足気に眺めたのもつかの間、冬になればそれらはすっかり姿を消して、白い花で賑わったプランターは、そこに花々が咲き乱れたことなどなかったことのように荒廃した。
冬の冷え込みで土の正面はすっかり乾いてきた頃。見向きもしなくなったプランターの中央に、緑色の葉が生えているのに気が付いた。水は一度もあげておらず、カモミールが枯れた後に種をまいた記憶もない。それにここはベランダといっても3階に位置していて、地続きの土から紛れこむような環境ではない。
私は興味本位でそれを観察することにした。
どうせ雑草だと思いながら観察すると、その葉は円状広がって、土を這った。調べてみると「ロゼット」という葉の茂り方のことを指すらしい。ロゼットで一般的に思い浮かぶのは、タンポポではないだろうか。切れ込んだ葉の感じがタンポポに似ていなくもない。私は春が待ち遠しくなった。
ある日、タンポポだと思っていた謎の生物がそれとは全く違う植物であると、思い知った。ロゼットの中央部から伸びた茎はタンポポにしては頑丈で、立派すぎた。タンポポは茎から葉を出したりしないことぐらい、よく目にする植物だからわかっていた。ところが、この植物は茎からたくさんの葉を生い茂らせ、どんどんと背丈を伸ばしてく。
それでも、私はそれが何だか調べようかという気にはならなかった。サプライズ的な何かを自分の中で期待して、春先に素晴らしい花をつけると思ったからだ。
ところが、春先になっても、茎が1メートル以上伸びても、花をつける様子もない。いよいよ伸び終えたのか、夏の日差しが強くなってきた頃に、頂あたりに蕾らしきものを確認した。どうみてもそこらに生えている雑草に違いないが、花は綺麗であってほしいなどと最後の望みを託した。しかし、いつまでたっても花開かず、きゅっと丸みを帯びた蕾がたくさん実らせただけだった。
蕾のまま花が咲かないなんていうことがあるのか。蕾が開いて、花が咲くのではないのか。私は混乱した。
そもそも、稲は花が咲くのか。よく考えてみると、見たことがないような気がする。それでは道端によく穂を垂らしているあのねこじゃらしはどうなのか。あれも花らしい花を見たことがない。
いよいよ私はプランターの植物の正体を調べることにした。
結果、ある程度想像はついていたけが、それは花らしい花を咲かせないことに加え、花弁がほぼ目立たず蕾のままのように見える植物があることを知ることになる。その名は、オオアレチノギク。ただの雑草どころか、日本生態学会によって日本の侵略的外来種ワースト100に選定されていて、外来生物法にて生態系被害防止外来種となっているものだった。分かっていてもがっかりした気持ちと衝撃は大きく、私はあっさりとそれをプランターから抜き去った。
その一件から、私は道端にあるただの草や、よく分からない花を調べるようになった。通勤途上の土手に、オオアレチノギクが群生していることに気が付くのは、それから間もないことである。
※補足
外来生物法にて、特定外来種と指定されている植物は輸入、販売、飼育・栽培・保管・運搬が禁止されています。オオアレチノギクに関しては生態系被害防止外来種であり、取り扱いに注意とありますが、基本的に育ててよい分類のものではないため、駆除してください。
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