第20話  もったいない

母は、よく、もったいない、もったいないという。


なにかプレゼントした物でも、高いから、もったいない。


なにか大事な時に使うとしまいっぱなし。


大事な時っていつ?


もったいないというのは、高いからもったいないというよりも、


(私には)もったいない。


つまり、自分には、その価値がないと思っているのだ。


父の過去を振り返った時に、なぜそう思うのかが分かった。


母が生まれた、戦後の小さな宮古島という島では、


必死に畑を耕したり、海で個人漁をして、物を売って生きて


いた。


だから、一人でも男の子がいると、全然違うのだ。


母は、三姉妹の末っ子で、祖父は、家には男の子が一人も


いないと、愚痴をこぼして悔しがっていたようで、


よその家では、男手があるだけ稼げるので、そういう意味では、


女の子の末っ子は、肩身が狭かったようだ。


必死でいろいろな事ができると、一緒に畑にもいったようだが、


お前にはこれぐらいしかできないといわれたり、


母なりに頑張ってはいたと思うが、力仕事となると難しい


だろう。


そういう意味では、ありのままの自分ではなくて、


男の人みたいにもっとできなくてはと思って生きているから、


どんなに頑張ってもゴールがみえないのだ。


頑張っても、頑張っても。


祖父も早くに亡くなり、祖母も、私が小さい頃に亡くなって


いるので、


「もう十分頑張ったよ」とか「今までがんばったね」


「もう頑張らなくていいよ」「そのままのあなたでいいんだよ」


って言葉を、本来ならかけてあげる両親がいないので、


いつまでも、頑張り続けて、今の自分を認められないのだ。


だから、私が、「お母さんは、もう十分頑張ってるよ、


お父さんや、私達の為に、今まで、すごく苦労してきてくれ


たし、お母さんのおかげで、私は、子供達にも巡り合えて


とても幸せなんだよ、ありがとう」っていうと、


いままで、そういう言葉をあまりかけてもらっていないから、


戸惑って、恥ずかしそうに笑っていた。


母の両親を生き返らせることはできないが、もう十分


頑張ってきてくれた事への感謝の言葉は、いくらでも伝え


られる。


言葉は、時間もお金もいらないし、他の物みたいになくなら


ない。


その思いは、その人の心への消えないギフトだ。





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