第31話 「過去の精算4」

俺は今、私立海凛かいりん高校に来ている。隣には彼女、今井七海が居る。そう。七海をいじめたやつの下見といったところだな。


余談だが七海の通っていたこの高校、私立海凛高校は県内でもトップクラスの偏差値を誇る所謂いわゆる最難関私立校のひとつだ。


俺からすれば次元が違う。七海はスポーツバカに見えて実は頭がよかったりする。


俺は無意識に右隣にいる七海を見た。すると、彼女は震えていた。そらそうだろう。怖いに決まっている。自分がいじめられて逃げた。そのいじめてきた奴らがいる学校に今、来ているのだから。


「七海。安心しろ。俺がいる。」

「うん⋯⋯。ありがと。」

「あぁ。」

それだけ交して下校の時間を待つ。校舎から続々と人が出てきた。すると、七海の震えが大きくなる。


校舎から一人、いかにもいじめっ子という見た目をした女子が出てきた。そのまわりには恐らくそいつの取り巻きだろうと思われる女子や男子が数名。目が合った。


「あれ? 弱虫ちゃんじゃん? 逃げたのにどーしたの?」

「⋯⋯。」

「無視? で? 隣のやつは?」

「友達⋯⋯。」

「ふーん。どーでもいいけど。何しに来たの?」

「それは⋯⋯」

「お前らを、潰しに来た。」

「は、」

俺は、無意識でそう口にしていた。ただ相手は女子だ。手を出すのは嫌だ。なのでまずは口で交渉からだ。

「何? どーゆー事?」

「お前だろ。七海をいじめたっての。」

「いじめた? 私が? いや、可愛がってあげたんだけど? まさかあんたいじめられたって言ったの?」

「⋯⋯。」

「聞いてんのかよっ!」

取り巻きの男子モブ一号が右手を上げた。俺はそいつの右手を掴んで抑えた。


「離せっ」

「口で分からないんなら実力行使だぞ?」

「あ? おもしれぇ、俺とやんのか?」

どうやら後戻りは出来ないらしい。それに、相当喧嘩に自信があるらしい。

「分かったよ。」

俺はそう言って掴んでいた右手を離す。すると勢い良くモブ一号が殴りかかってくる。俺は拳を避け前のめりになったモブ一号の首の根元辺りを少し強めにチョップした。


バタ⋯⋯。


時間にして数秒。モブ一号は気絶した。


「は⋯⋯。お前、嘘、だろ?」

どうやらやりすぎてしまったようだ。力加減が難しい。


「あぁ。分かったかな? 次、七海にちょっかいかけたら⋯⋯君だよ?」

最後に脅し文句として入れておく。

「わ、分かったよ。」

わかってくれて何よりだ。流石は最難関私立校。物分りの悪いサルとは全く違う。


「帰るか。七海。どこ行く?」

「う、うん。」

「どした? 青ざめた顔して?」

「いや、あの男の子。喧嘩は強くて頭もいいって有名だよ。それを、あんな一瞬で気絶させるって、どうやったの?」

「首の根元辺りをチョップしただけ。勝手に寝たよ」

俺は寝転んでいるモブ一号に冷たい水をかけて起こしてやる。

「気分はどーだ?」

「あ、あれ⋯⋯俺⋯⋯。あ、お前!」

「よせ、まだ寝たいのか?」

「っ⋯⋯。」

「お前の大好きな金髪女子なら帰ったぞ? こりゃ脈ナシだな。」

「はっ、だ、誰が好きって言ったんだよ。」

「あんだけ必死になって味方してりゃ言ってんのと同じだろ。じゃな。」

「て、てめぇ!」


何とかなったみたいだ。
















「危ないっ⋯⋯。」








目の前に紅のドロドロとした液体が飛び散った。




背筋が凍った。




空に願った。





「目が覚めますように」と。

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