第六話: 彼女の名前 パート 2 / Nome dela parte 2
あらすじ:誕生式を終え、ユナの家族は王様とお妃様が開催しているお城のパーティーへ行くことになりました。
第六話:賭け/Aposta
私達家族はイグレーナの誕生式が終わった後、一旦家に戻り、即座におめかしをしてお城へと向かった。
この場合、おとぎ話によく出てくるような馬車ではなく...馬に乗って目的地まで向かう。
ーー正直、馬車みたいに優雅に行くよりも
(勿論そんな金も無いし)
馬に乗って颯爽と走って行く姿の方が何倍もかっこよくて私は好きだ。
ーーそして普通に速い。
「皆さん、 早くしないとパーティーが始まりますよ」
この声の主は私の父や母ではなく、私の兄姉でもない。
ーー無論、私でも無い。
「分かってるって、エクア」
すると、ヒヒーンと父に答えた。
ーーそう、この世界には馬もいるのだ!
彼女の名はエクア。
子供の頃から我が家で大事に育てられている馬で家族の一員。毎日大事に手入れされているので毛並みなんかもうツヤツヤのサラサr…
「私の紹介はいいので、早くしてもらえませんか?」
ーーあ、はい。すみません。
「さあ皆、私の手に触れて」
母がそう言うと父はロン兄ちゃんも、キーナ姉ちゃんも母の手のひらにそっと手を乗せた。
私はというと大きな父の片腕に抱き締められながら、すやすやと眠っている。
「フィカール • レーヴェ」
エクアに乗る前に母が呪文を唱えると母の手の平が数秒の間、光りを帯びた。
この呪文は簡単に説明すると体を軽くすることができ、母の手に触れた人は自身の体を最低一グラムにまで軽くする事が可能だ。
ーー勿論五分という時間制限付きだが。
やはり一匹の馬に五人も乗るのは負担がかかりすぎるので、こういった行事の時はいつもこの呪文を使うのだ。
ーーじゃあ魔女である母はホウキに乗って行けばいいじゃないかって?...
…まあ
.... 細かいことは気にしないで。
「皆さん、乗りましたね?ではしっかり捕まって」
エクアはそう言うと、長い足を鳴らし、稲妻のように颯爽と風を駆け抜けた。
…五分もかからぬ内に目的地の城に着くと、馬を置く場所があり、そこにはすでに多くの馬達がいた。
呪文が解ける前に私たちはエクアから降りた。
「はぁはぁ、振り落とされるかと思った」
父は息を切らしながら降りた。新幹線並みに速いエクアの走りに、父は何度も振り落とされそうになったからだ。
特に父のように体重が重いと、この魔法を使うとき重力の力が減少する。
なので体を軽くしすぎると、身軽になる分衝撃に弱くなるのだ。
例えば体を一グラムにした場合、強風なんか吹けば大熊の父でも吹っ飛ばされてしまうわけだ。
「あら、エクアさんお久しぶりね。元気にしてた?」
その時、とある黒い馬がエクアに近付いてきていた。
声をかけたのはその場にいたネカさんとこの馬のカーバロさんだった。艶のある漆黒の毛並みが月で照らされ、キラキラと光を浴びている。
「カーバロさんお久しぶり、早いのね。貴方の主はもうお城に?」
「そうなの、何か用事があるみたいで」
二人は、正確に言うと二匹の馬は、雑談を始めた。
エクアとカーバロさん、実は騎士団で活躍していた馬で親のガロウとツネッティさんの仲もあり、とても仲が良い。
エクアは父と一緒に未だに騎士団の軍馬として貢献しているが、カーバロさんはツネッティさんのこともあり、今は引退している。
『それじゃあエクア、俺達はパーティーに参加するから、また後でな』
「かしこまりました。旦那様、あまり羽目をはずさないように」
「大丈夫よ。私がついているから」
母はエクアにウインクをして、ユナを抱えた。
ーーその時エクアの瞳にはガロウの背中がなんだか小さく見えたそうだ。
私達家族はその場を離れ、今回の目的地であるパーティーへと赴いた。
階段を数段登った後、お城の門の入り口をくぐった。
そこには目の前に食べきれない程のご馳走が並んでおり、先程までいたイグレーナも十分大きかったが、アソル国唯一のお城アソル城は冗談抜きで迷子になる程の大きさを誇っている。天井もイグレーナより遥かに遠く、よりその存在を強く感じる。
つい先程イグレーナで誕生日式を終えたというのに、パーティーにはすでに大勢の人々で溢れかえっていた。
「ガロウ、よく来たな」
そこには王様とお妃様、そしてすでにネカさんもそこにはいた。
「よく来たわね。キーナちゃんとロン君も今日は楽しんでいってね」
お妃様が二人に声をかける。
純白なドレスで身を纏ったお妃様は、先程見た愛らしい顔立ちからより一層大人びた雰囲気を醸し出していた。
「勿論!私パーティー大好き!!」
と頷きながら持ち前の明るさで返事をした、その反動で母に結んで貰った大きなオレンジ色のリボンのカチューシャはピョンピョンウサギのように跳ねた。 ロン兄ちゃんは相変わらずお母さんの長いドレススカートの後ろに隠れてもじもじしている。
「ネカもう来たの?ところで、ツネッテは?」
「ナジャ、実は色々あって厨房の方を手伝っていてね」
「色々?」
私の母と父が息ピッタリに同じ言葉を発する。
「ーー今私と賭けをしているのよ」
突然何処からともなく女性の声がした。
その声に振り返ると、少し年のいった低身長の女性が大量の料理が乗った皿を運んでいた。華奢な見た目なのにかなりの力持ちだ。
大量の皿は落ちそうで全く落ちない。
「チーアさん、ご無沙汰しております!大丈夫ですか?良ければお持ちいたしますが...」
父は心配して、彼女の腕にある一つの皿に手をさしのべるが、
「いえ、結構です」
ときっぱり断られてしまった。
ーー紹介しよう。
この方はチーア • ヴェルディさん。
アソル城の厨房の担当責任者をしており、彼女の作る料理やお菓子はどれも絶品。彼女もツネッティさんとネカさん同様、旦那さんと一緒にお店も経営している。
そして彼女には一年に一度、作れるか作れないか否かの幻のお菓子があるらしい。
そのお菓子が作られる年にはなんとアソル国を含め国外からそのお菓子を求め、大会が行われる程だ。
『まさか賭けって...』
私の親は何かを察したのか、ネカさんに視線を送る、ネカさんはそれに気づいたのか苦笑いしながら
「どちらの料理が一番お客様に美味しいと言ってもらえるか、ツネッティと競争しているのよ」
と話した。
実はツネッティさんとこのチーアさんは昔、弟子と先生の関係にあった。
元々料理が好きだったツネッティさんは騎士団にいたころににチーアさんに弟子入りをし、全ての有り余る技術を厳しく叩き込まれたらしい。
まあそのかいもあってか、現在はツネッティさんとネカさんのお店は大繁盛しているわけだが。
その時からお互い負けず嫌いらしく、その頃から顔を合わせばいつも料理対決をしている。
「あそこに沢山ある料理の二つのテーブルに猫の置物が二つ置かれているでしょう?左側の赤色のリボンの猫が置いてあるテーブルに乗っている料理は私の。右の青のリボンはツネッティ君の料理になるわ』
「そして美味しいと思った方のテーブルに猫の頭を数秒触れるとだんだんと膨らんでいくから、一番膨らんだ方...つまり一番美味しいと思わせた料理が優勝になるわ」
…猫の置物が地味に可哀想だが、テーブルには現実世界では見かけないような美味しそうな匂いがする料理がずらりと並んでいる。そしてチーアさんが運んでいる料理の品の数々もよだれが今にも出そうだ。
『チーアさん、本当にいつもありがとね』
ネカさんは少し視線を落としてチーアさんを見つめる。
『彼...ツネッティは目が見えなくなっても、私の前では弱音を吐かずにいつも頑張ってくれているわ。だからこそチーアさんみたいに大好きなことで本音を言い合える人がいて本当に良かった』
ネカさんの顔は嬉しいような、少しばかり寂しいような、そんな表情を浮かべていた。
ツネッティさんが目を負傷して目が見えなくなった時、彼を一番に心配してくれたのはチーアさんだった。
彼女は幻のお菓子をわざわざ作ってツネッティさんまで持っていったらしい。
泣きながら頬張るツネッティさんを彼女は母親のように頭を撫でてくれたらしい。
チーアさんは微笑みながら
『別にお互い好きで料理対決しているだけだから、そこまでたいしたことじゃないよ。それに...男ってものは、好きな女性の前ではカッコつけたがるもんなんだ』
とウインクした。数十分も重そうな料理を抱えながら話していたはずなのに、ウインクを見せる余裕まであるのか。
か...
カッコいい...
それを聞くとネカさんは安心したような笑みで
「そうですね」
と答えた。
『料理は沢山あるからどれでも好きなものをたべておくれ。それじゃあ私はこれを運んだら厨房に戻るからね』
そう言うと、チーアさんは大量にある料理と共にその場を離れた。
ーー大人になったら彼女みたいになりたい。
そのときの私は輝くようなその目で決心をした。(まあ覚えてないんだけど)
ーーその時だった。
カツン、カツン。
あのハイヒールの音が、広いお城の床に響き渡った。
「このハイヒールの音は」
先程のイグレーナのように、皆の集中がまたあの家族に注がれていた。
今度は真っ赤に染まった服装に視線が浴びられていた。
そこには勿論、彼らの赤ん坊も一緒だ。
「ふん、やっと来たか。待っていたぞ、ルンク」
「やあ、ヨーク」
ちなみにヨークとは王様の名前だ。
「お久しぶりです、ヴェルメ。何年振りかしら?」
『お妃様、先程お会いたしました』
天然ぶりを発揮するお妃様をヴィンテウン家のヴェルメは顔色一つ変えずに答える。
ヴィンテウン家も赤ん坊を連れてパーティーに参加しに来ていた。
ヴェルメの腕にも可愛らしい赤子が真っ赤な布に包まれ、眠っている。
「にしてもお前に似ず、可愛い赤子だな。名前は?」
今度は王様がヴィンテウン家のルンクに質問した。
「フフフ、よくぞ聞いてくれた。彼女の名はガーナ。自然に愛され、自然を制する名だそうだ」
そこまで神父さんは言っていなかったが、めんどくさかったので誰一人として訂正はしなかった。
「...そうか、まあ今日はお前達もパーティーを 楽しんで...」
「そうだヨーク、俺と勝負しろ」
『いや、どゆこと』
話が全く噛み合わない二人は、アソル国の人間なら誰もが知る犬猿の仲だ。
先程の誕生式では神聖な場所でもあったことから、お互いあえて顔を見ずにいたが実際の所は顔を見せあえばいつも対決をしている。
いや、正確にはヴィンテウン家の当主であるヴィンテウン•ルンクは顔を合わせばいつも王様に勝負を持ちかけるのだが...
ーーこの国の人は本当に勝負事が好きだな。
『今回は沢山の幼きアソル国の民衆に来てもらっている。ゆくゆくはこの国を補う役目がある大事な人材だ』
『なので、その赤子達のために今からお前と俺どちらが赤子を笑せられるか勝負したい』
「なるほど...分からん!」
その光景を見ていたお妃様は
「ねえ、ヴェルメさん。あんな人達はほっておいて一緒にパーティーを楽しみましょう。ほらネカさんもジャナさんもご一緒に」
と二人を無視してその場にいた女性陣に声をかける。
「そうね、どうせいつものことだし」
「お腹も空いたし、料理でも食べてましょうか」
母もネカさんもお互い顔を見合わせ、二人は息ピッタリに
「ヴェルメさんも、行こ!」
と言うと、ヴェルメさんはイグレーナの時から顔色一つ変えずにクールに装っていたが、少し照れながら
こくん
と頷いた。(カ、カワイイ)
そして、各々が対決やら、料理やらで楽しんで(?)いた時に
一筋の微かな香りがそこにいた皆の興味を惹き付けた。
薔薇ののように艶香で、しかし薔薇のトゲのよう痛々しい強い香水の香りが段々と近付いて来るのが分かった。
ーー香りのその先には、 一人の女性がいた。
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