第四話:名前を付けよう
(カオス回です、一応本編ですが見なくても次回に影響はありません)
私(ユナ)が誕生式に参加している間、現実世界では緊急事態が起きていました。
埼玉県行田市倉橋家にて:
『皆さん揃いましたね? 』
母が赤ん坊の
昔懐かしいちゃぶ台を囲みながら、そのちゃぶ台の上には数本のペンや紙。そして明美さんが持ってきた季節限定のロールケーキ切り分けられ、置かれていた。
『では、名前会議を始めたいと思います 』
緊迫したその空気の中、私の名前を決める名前会議が行われようとしていた。
この会議は私の母、倉橋幸子の倉橋一家の恒例行事とも言える大イベントなのだ。
倉橋家は赤ん坊が生まれる度に、親戚を全員集め、どの名前が相応しいのか決める。私の母もここにいる親戚全員そうやって名前を付けて貰ったのだ。
と言っても、窓の外を見ると今にも世界が終わりそうなくらい強い暴風と大雨に覆われていた。
まるで昨日の晴天が嘘みたいだ。
本当はもっと来るはずだった親戚もこの天気では止む終えなくなってしまった。
(本当良かっ...残念だったな)
『ではまず最初に』
しゃがれた声でそう言って、細くしわくちゃな手を挙げたのは母の母親、つまり私のお婆ちゃんだ。
お婆ちゃんは名前会議でいつも装備されている紙とコップに入ってあるペンを取り、達筆な字で
(姫子)
と書いた紙を皆に見せた。
『あらお母さん、ひめこ? まあ普通にいんじゃな...』
するとお婆ちゃんは眉を潜め 、
『ーー何を言ってるんじゃ、ひめこやのうて姫の子と書いてプリンセスじゃよ』
とお婆ちゃんは真面目に答えた。
『何言ってんだキラキラネームなんて可愛そうだろここは』
と叔父さんが乱暴にお婆ちゃんからペンを奪い、紙に書き殴り
『衛璃座辺壽って書いてエリザベスって呼ぶんだ、どうだ?洒落た名前だろう?』
と見せた。
『私も一応考えたんだけど』
叔父をスルーして今度は母が、淡々と紙にペンを走らせていく。
『これなんてどう?』
紙に書いた名前を片手で持ち上げ皆に見えるように見せた。
『"アキラ?"』
父が不満そうにその言葉を発する。
『昔は男の子に良くつけてたイメージはあるけど女の子でもあきらって名前の子はいるし...あら、貴方どうしたの?』
今度は父が眉を潜め母に聞く
『ちょっと待て幸子、その名前って
お前が好きなジャニーズグループ
Luklük(ルクルク)のアキラじゃないよな?』
知らない読者の皆さんの為に*
Luklük(ルクルク)とは、今をときめく世の女性達を中心に絶大なる人気を誇る男性5人グループ(らしい)。その中でも、クールだが天然というあまりにも王道的存在のリーダーである"アキラ"を実の母は(大が付く程の)ファンなのである。
『え?そうだけ... 』
『普通に却下』
母が言い終わる前に父が反対する。
すると叔父の奥さんの明美さんが手を上げた。
『盛り上がっている所悪いんですけど、もう少し真面目に考えましょうよ、これじゃあいつまで立っても赤ちゃんの名前が決められないじゃないですか』
彼女は私の叔父の奥さんでお父さん以外に倉橋家の血が繋がっていない常識人。
『早くしないともうすぐ、キュアキュアるるかの放送始まっちゃうので』
前言撤回、そんなことはありませんでした。
『じゃ...じゃあ俺はこの名前が言いと思うんだけど』
そう言うと父は、恐る恐る書いた名前をテーブルの真ん中にそっと置く。
皆が一斉に覗き込み、お婆ちゃんが、
『おや、愛の花って書いて愛花(あいか)?愛らしい名前じゃないかい...』
『いや、愛の花って書いてラバーズフラワーって呼ぶんだ』
と照れながら嬉しそうに話した。
実は私の父は少女漫画の編集長で、アニメ化もされた大人気作品、魔法少女キュアキュアるるかの担当編集長をしているのだ。
『実はキュアキュアるるかの幸子(主人公)の技名にと考えていて...』
すると今まで大人しかった明美さんがちゃぶ台を
ドンッッ!!
と叩いた。あまりの衝撃にちゃぶ台が真っ二つになるのかと思った。
『えぇぇぇ!?幸子に新たな技名が?いいいい一体どんな技を...』
今まで常識人(?)を保っていた私の叔母さんが奇声を上げる。
すると父が満面の笑みで
『ふふっ、それは次回までのお楽しみだよ』
と凄いかっこつけで明美さんに答える。
(技名言っている時点でアウトだと思うけど)
明美さんと父以外のその場にいた人間がそう心のなかで以心伝心した。
『とまぁ冗談はこれくらいにして』
平常心を取り戻した明美さんが皆にそう言った。
(さっきまでのは茶番だったのか)
『皆さんはこの子にどうなって欲しいとか無いんですか?』
明美さんが皆に問う。
『『『う~~~ん...』 』』
皆が一斉に頭を抱える。
『まあ普通にいい子に育って欲しいわね』
お母さんが言う。
『いろんな経験をして、大切だと思う人を見つけて欲しいのう』
お婆ちゃんが目を閉じながら微笑んで答える。きっと今は亡きお爺ちゃんの事を考えているんだろう。
『昨日のスーパーで見かけたあのアルバイトの青年、ありゃあ中々良い尻だったわい』
前言撤回、私のお爺ちゃんジャナイワ。
つか、どこ見てんだ婆ちゃん。
『それでいつか結婚して、子供も生まれ、親の元を離れていくんだろうなぁ』
父はコップに入ってある水を一杯飲み、
『はぁ』
とため息混じりに言った。
(まだ早いだろ、生まれたばかりだぞ)
『でも、確かにそうですよね。人生って経験や人の繋がりがあって成長していくし、現に私も、真さんの出会いがあって今こうやって皆さんと...』
『いやぁ、それほどでも...ヘヘッ(*>ω<*)』
私の伯父さんが照れる。
『もう、照れないでよ(///∇///)フフッ』
今度は明美さんまでもが照れ始めた。
『ヘヘヘヘヘッ💙』
『フフフフフッ❤』
のろけ全開を発動させたこのバカップ...夫婦を母、父、婆ちゃんと幼い私は白い目で温かく見つめた。
すると明美さんがこの惚気のおかげか、何か悟りを閃いたように、目を輝かせ皆の方へ向き
『繋がり...ゆかりってどうでしょう?』
『ゆかりは繋がりや縁があるって意味なんですよ。だからこの子にとてもぴったりだと思うんですけど』
と明美さんは説明した。
その名前の意味は繋がり...とてもぴったりだと思った。
母、父、叔父、お婆ちゃんはお互いに目を見合せ、何も言わなかったがその名前に賛成するかのように、こくんと明美さんの方に頷いた。
その時不思議な事に、さっきまで世界が終わりそうだった空がゆっくりと色を変え、綺麗な夕方のオレンジ色の空へと塗り替えられていく。
その光景を見ていたお母さんが微笑みながら
『きっと、神様もこの名前を気に入ってくれたのね』
と暖かく大きい優しい手で、私の髪を触る。
変だと思われるが、その時の状況を未だに覚えているのだ。
ーー今でも夢に見る。
母以外にもう一人、誰かが私の髪に触れていた。
暖かい二つの手が私の頭を優しく、撫でていたのだ。
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