ゴブリンに産まれたけど、人類がゴミなのでリセットしようと思います

行記(yuki)

#001 白いゴブリン

「それで、そのゴブリンは本当に強いのか?」

「報告では、中級冒険者が何人も返り討ちにあったって話だけど……どうだかな」

「最近の(冒険者)ギルドは、品格だのとヌルい面ばかり重視して、肝心の戦闘技能を軽視する傾向にあるからな。そのゴブリンが強いというより、単純な個人技能で負けた可能性は高いだろう」

「まぁ、戦ってみれば分かる事だ」


 4人の冒険者が、深い森を進んでいく。背の高い木々が生い茂り、昼間であるにもかかわらず常に薄暗いその場所は、人々に"苔むした森"と呼ばれていた。


「アルビノだっけ? 白いゴブリンとは珍しいな」

「大きさは普通なんだって? それなら、リーダーやキングの可能性は無いだろうが……」

「まず間違いなく"レッド"か"ホブ"だろうな。武器や罠を使ってくる可能性が高いから、注意しろよ」

「まぁ、分かっていれば問題ない。そう言うのは、無いと思って油断するからダメなんだよ」


 本来のゴブリンは、小型の二足歩行で、素早さと獰猛さ以外に恐れる部分は存在しない。しかし、環境などの影響で強化個体や上位種に進化する個体が現れる。


 ゴブリンの上位種は2系統が確認されており、戦闘に特化したレッドキャップ種と、知能面が成長したホブ種だ。通常種も含め3系統はそれぞれ、そこから強化個体であるソルジャーやシャーマン、そしてその統率個体であるリーダーやキングなどへと進化していく。


「おい、あんなところに家があるぞ!?」

「ホントだ。猟師小屋かな?」


 見つけたのは、小さなツリーハウス。森の奥に、冒険者や猟師が休憩用の小屋を建てるのは珍しい事では無いので、4人は特に怪しむことなく、そこへと足を向ける。


「どうせ家主は例のゴブリンに殺されているだろ。折角だから金目のものが無いか、漁って行こうぜ!」

「へへっ、冴えてるな~」

「だろ?」


 ツリーハウスに近づくと、木の根元には小さな井戸と瓶が置かれており、よく見れば他にも生活感が感じられるものが雑然と並んでいた。


「魔物に荒らされた形跡はないな」

「見ろよ、ハーブが干してある。これで魔物を追い払っているんだろ」

「なるほどな。そうなると、家主が生きている可能性もあるか……」

「それなら、対応は"いつもの"でイイよな?」

「意義な~し」

「「だな」」


 いつものとは『男だったら殺す、女だったら犯して殺す』と言う意味だ。彼らは普段、上級冒険者として模範的に振舞ってはいるが、人気のない場所で人と遭遇した場合には、その本性を露にする。


「あの……そこは私の家なので、勝手に上がられると、困るのですけど……」

「「!!?」」


 冒険者たちがツリーハウスに登ろうとハシゴに手をかけたその時、突然背後から声がかけられた。


「な、なんだ。嬢ちゃん、ここの住人か?」

「は、はい……」


 そこに立っていたのは小柄な少女だった。


 黒いワンピースから覗かせる白い手足。顔は大きな麦わら帽子でよく見えないが、その可愛らしい声は……男たちの情欲を掻き立てるのには充分であった。


「へへへ。お嬢ちゃん、ここには一人で住んでいるのか?」

「えっと……最近まで2人だったんですけど……」


 4人の口元が、ニヤリと吊り上がる。


「大丈夫、みなまで言うな」

「俺たちが来たからには、もう安心だ」

「え? あの、ちょ、来ないください!」


 紳士的な言葉とは裏腹に、男たちの表情に紳士のソレは見てとれない。少女もその気配を察し、後ずさって行く。


「あまり、抵抗しない方がイイよ?」

「そうそう。抵抗しても痛いだけだから」

「やっぱり、貴方たちも、そうなんですね……」

「「??」」


 悲しみに溢れる声が、さめざめと森に響く。


「まぁいいや。さっさとヤッちまおうぜ」

「まぁ、それも一興だな」

「…………」


 2人が左右にまわり、少女の両腕を掴む。正面の2人の視線は太股に吸い寄せられ、その手はスカートに掛けられんとしていた。


 ――ブチリ!!――


「「へ??」」

「ぐへへへ、具合はどうか……」

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!」」

「なっ! どうしたんだよ行き成り……って!!?」


 2人が視線を上げると、そこには肩を押さえて転げまわる仲間の姿があった。


「腕が! 腕が千切られた!!」

「くぞっ! コイツ、バケモノだ! 早く! 早く腕を!!」


 少女の両手には、冒険者の腕が1本ずつ握られている。


「あぁ、コレですか? はい、どうぞ」


 手にした腕を、つまらなそうに投げ返す少女。するとそこに一陣の風が吹き抜け、麦わら帽子が宙を舞う。


「「!!?」」

「その"角"!!」

「まさかお前が、ターゲットの白ゴブリンか!!?」


 少女の額からは、小さな角が生えており、耳も尖っていた。その角はまさしくゴブリンのソレであり、その耳は精霊種によく見られる特徴と酷似していた。


「何故、アナタたち人族は、そんなにも身勝手で、愚かなのですか?」

「はぁ!? 何言ってんだコイツ??」

「何もしていない私や、あの子を……」

「くそっ! とにかく殺せ!!」

「チッ! やるぞ!!」

「応っ!!」


 同時に振り下ろされた2本の剣が、同時に地面を切りつける。


「「なっ!?」」

「やはり、私たちは分かり合えないのでしょうか?」

「かまうな! 攻撃しつづけろ!!」

「こなくそ!!」


 繰り出される高速の斬撃。しかし、その尽くが宙を切り、少女を捉えることは無かった。


「折角、見逃してあげたのに……その礼が刺客コレだなんて」

「くそっ! くそっ! くそぉぉお!!」

「やはり、情けはかけるべきでは無かったのでしょうか?」

「なんで、1発も当たらねぇんだ!!?」

「アナタたちを殺しても、私が死ぬまで……」

「おい! なにやってんだよ! 早くしろ!!」

「この、愚かなやり取りは、一生続くのでしょうか?」

「血が、ダメだ、もう意識が……」

「それなら、終わらせるしか……無いのでしょうね」


 その瞬間、少女のまわりを赤い軌跡が駆け抜け……剣を振るっていた冒険者の首が同時に宙を舞った。


「ひっ! ば、バケモノ!!」

「私から言わせれば、アナタたちの心の方が、よほどバケモノじみていると思うのですが……」


 しかし、その言葉を聞くものは、この場所には残っていなかった。


「はぁ……。やはり、この世界にはリセットが必要なんですね……」




 こうして、白いゴブリンの少女は、旅立ちを決意した。

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