かぜのまぼろし
ちーずけいく
第1話 そよ風
これは、ある風の強い季節の話。
絶対に信じられないであろう、摩訶不思議な話。
私が体験した、あるまぼろしの話。
チャイムがなる。お腹が空いた。もう四時限目が終わったのか。お昼だ。
そんなことを思いながら私はお弁当を広げる。高二にもなって、新しい友達が一人もできないのは、このキャラ弁のせいなのだろうか。今日はあの有名な電気ネズミのキャラ弁。まあ、またこんなに凝ったものを。
「あ、いたいた!みか!…まーた一人?」
「うるさい恭子。私は一人でも寂しくないし」
佐野恭子。私の幼なじみ。私よりももっと頭が良かったはずなのに、私に合わせて高校のレベルを下げた。意味不明。
恭子は私のとなりにどかっと座り、同じようにお弁当を広げる。恭子のお弁当はいつも質素ながら味がある。
「みか、あんたもう高二なの。華のセブンティーンなの。あたし以外の友達作らないでどうするの?あたし心配だわぁ」
「あぁまたお母さんみたいなこと言って…私は恭子がいればいいの。それに、友達なんてそんなにいっぱい作るものでもないでしょ?親友って言える子が一人いれば」
「え?!じゃああたし親友?」
「それ以外に何があるのよ」
「やったー!!やっとみかに親友って認められたー!!!」
「え…そんなに言ってなかった?」
「全くだよ!嬉しいなぁ…」
恭子はルンルンとしてお弁当のハンバーグを食べている。第一、ここまで着いてきてくれている友達を親友と呼ばずしてなんと言うのだろう。
「そーいやさあ、これ、やってみない?」
そう言って恭子が取り出したのは『第二十五回文化祭 実行委員募集のおしらせ』 だった。
「実行委員?」
「そう。今回は希望してる人が少なくて人手が足りないから手当り次第に聞いて回ってるの。やらない?」
「恭子は今年やるんだ?」
「もちろん!運営するの好きだしね。やらない?みか」
「やらない」
「えー?即答?」
「だって文芸部の出し物忙しいし」
私は文芸部に所属している、いわるゆる文学少女だ。普段から文豪の小説を読み漁ったりしているが、将来の夢は小説家じゃない。立派なエッセイストだ。人々の心を癒す、随筆のようなエッセイを出すのが夢だ。そんな中、実行委員だなんて寄り道はしていられない。
「んー…分かった。気が変わったら言って」
「うん」
その瞬間、教室の中に突風が吹いた。
思わず目を瞑ってしまうほどの突風が。
「うわっ…すごい風。みか、窓締めて……みか?」
恭子の声など聞こえない。私は窓の外の景色に呆気に取られていた。
窓の外からは、隣の棟の屋上がよく見える。
そこには、未だかつて無いほど綺麗で儚い少年が、屋上の柵を乗り越えようとしている。
完全に、自殺だ。
「ごめん恭子!ちょっと待ってて!!」
「え、みか?!!ちょっと!!!」
恭子の声など気にしていられない。早くしなければ、彼が死んでしまう。
あんなに儚い少年、死なせてたまるものか。
絶対に止めて話を聞いてやる。
今後のエッセイの、肥やしになるように。
経験を積むんだ。話を聞くんだ。
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