前のエピソード――什陸　風雨廊橋（2020年６月）

　『全職高手』は中国の人気ネット小説を原作とするメディアミックス作品である。アニメ一季（2017年）、特別編（2018年）、二季（2020年）、劇場版（2019年）と実写ドラマ（2018年）オーディオドラマがある。日本では、あまり馴染みのないeスポーツ(プロゲーマー)の世界が舞台となっている。

　一葉之秋こと葉修（イエシウ）（途中まで訳あって葉秋と名乗っている）はプロチーム嘉世のキャプテンであり、人気も実力も最強を誇っていた。

　しかし、ある日突然解雇を言い渡される。メディアに一切素顔を出さず、チーム運営に必要な資金を得るのに必須の広報活動に協力的でなかったためだった(彼は実家を飛び出しており、家族に知れると連れ戻されるため、拒んでいた)

　チーム運営側は最近頭角を表してきた若手の孫翔と契約し、一葉之秋のIDを返納させる。チームを追い出された葉修は、偶然立ち寄ったネットカフェで働き？ながら再起を目指す。新たなID君莫笑を得た彼の目標は新たなチームと共にプロリーグに再び挑むことだった。

　早い話、主人公と彼を取り巻くチームメイト、ライバルなど様々なプレーヤーたちが織りなす王道のスポーツものだ。

　葉修の新チーム興欣側では、彼の熱烈なファンで後にチームオーナーとなる陳果、負けず嫌いの唐柔、明るい包子、理論派の羅輯、孤独で寡黙な莫凡、一度は限界を感じて引退したが舞い戻った魏琛。金の事しか頭になかった安文逸、他チームで鳴かず飛ばずの存在だったところを葉修に見出され、何度も挫折を味わいながら成長する喬一帆など、それぞれ問題を抱えつつ成長していく魅力的な登場人物が多い。

　また、他チームのキャプテンや副キャプテンたちも、打倒葉秋を目指しながらも結局、みな彼の存在に魅せられている。

　この作品、アニメよりドラマの方にはまってしまった。ゲーム映像と現実の境界がはっきりしていたので、話も分かりやすかった。敵役の立ち位置だった孫翔を叩きのめして終わりとする形でなく、プレーヤーとして成長させているところに好感が持てる。

　アニメは一季と二季が劇場版と特別編を除きyoutubeで、ドラマは『マスターオブスキル』のタイトルでNetflixで公開されている。同タイトルの和訳本も出ているが、残念ながら４巻で終わっている(流通在庫のみで、版元ではおそらく絶版)原作は20巻以上ある長編だ。

　現在の三期の製作が発表されているが、内容上風当たりが強そうなので、できるだけ規制が影響しないように祈っている。

　2022年4月13日、池袋グランドシネマサンシャインにて劇場版『マスターオブスキル―栄耀のために　』(原題:全職高手　巓峰栄耀)が上映され、6/17より一週間、同劇場と大阪の心斎橋シネマートで再上映が始まっている。内容は嘉世黎明期の話で、本篇の前日譚に当たる。敵味方プレーヤーたちの抱える葛藤や、矜恃をかけた熱い闘いが繰り広げられる。