ずっといっしょ

大和ラカ

ずっといっしょ

 俺は大宮昴。

 どこにでもいる普通の高校生だ。

 いつものように放課後を迎え、帰宅していると同じ学校の制服を着た女の子が見知らぬ男たちに絡まれているのを見かけた。


「ねぇ君、俺たちと遊ばないかい?」


「俺たち楽しいところ知ってるんだよね」


「あの……その……」


 女の子の様子は明らかに困っているような感じだ。

 ここで放っておくのも後味が悪い。

 一呼吸おき、俺は女の子に声をかけた。


「なんだ、先に帰ってたのか。探したぞ」


 俺がそう言うと女の子はこちらに振り返った。

 女の子からしたらどういう訳か分からないため、驚いたような顔で俺の事を見ていた。


「チッ、男連れかよ。いこーぜ」


 そう言って男たちは立ち去った。

 女の子は唖然としており、状況を飲み込めていない。


「思ったより早く撤退してくれたな。よかったよ」


「あの……えっと……?」


「あぁ、ごめん。あいつらに声かけられて困ってたからさ」


 そう言うと女の子は俺の事を見て目を見開いた。

 少しして口元を固め深々と頭を下げると走っていった。

 恥ずかしがり屋なのかな?

 そう思い、俺は自宅へ帰った。


 それから1週間経ち、女の子の名前が長岡空ということを知った。

 しかし、長岡と出会うことはほとんどなかった。


 更に1ヶ月が経った頃、この所誰かにつけられてる気がして仕方ない。


「なぁ、最近誰かにつけられてる気がするんだが……」


「そうか? 気のせいじゃねぇの?」


 俺の友人である桂川弘が答える。


「初めはそう思ってたんだが、最近変な視線を感じてな」


「あいつには相談したのか?」


「流石にできねぇだろ。心配かけるのも嫌だし」


「んー、まぁ俺も適当に見ておくよ」


「悪いが頼むよ」


 更に1ヶ月が経ち、この付きまといはエスカレートしていた。

 付きまとわれてるだけならまだよかったのだが……


「あれ、またノートが無くなってる」


「この前も無くなったって言ってなかったか?」


 弘が少し心配そうに俺を見て言う。

 カバンを漁るも見つからない。


「なぜか最近物がよく無くなるんだよな。困ったぜ」


「これも例のストーカーか?」


「多分そうなんじゃないか? 誰がこんなこと」


 次の日、学校へ行くと下駄箱の中に手紙が置かれていた。


「手紙? なんで俺のところに」


 裏返してみると、俺宛の手紙みたいだ。

 これもストーカーの仕業なのか……?

 そんなことを思いながら俺は手紙の封を開けた。


『あなたのことが好きです』


 とだけ書かれていた。

 ラブレターにしては簡易すぎる。

 何なんだこれは?


「あ、昴くん。おはよう」


「え、あぁ、おはようございます。凛さん」


 声をかけてきたのは、1つ上の先輩で俺の彼女である烏丸凛さんだ。


「何持ってるの?」


「え、あぁ。よく分からないけどラブレター?」


「もしかして浮気?」


「ち、違いますよ! 誤解です!」


「うふふ、冗談よ」


 そう言って口元を手で覆い笑う。

 この笑った顔が可愛いのだ。


 そのとき、どこからか冷たい視線を感じた。

 背筋が凍りつくようなそんな視線が。


 慌てて振り返ってみるも誰もいない。


「どうかしたの?」


「あ、いえ、何でもないです」


 そう言って俺は少し慌てて教室へ向かった。

 さっきのは一体……

 そう考えながら歩いていると誰かにぶつかってしまった。


「うっ、すみません」


 ぶつかった人を見てみるとそこには長岡が立っていた。

 長岡は俯いており、表情が見えない。


「長岡さん? どうかしたの?」


 そのように声をかけても返事がない。

 よく分からなかったが、俺はその場を後にし教室へと向かった。


「………………許さない」



 次の日、また下駄箱に手紙が入っていた。

 それも昨日とは違い何通も入っていた。


「……なんだよこれ」


 そのうちのひとつを開けてみるが俺は開けなければよかったと後悔した。


『好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです』


 永遠と好きですと赤い字で綴られた手紙が入っていたのだ。

 もしかして、残りの手紙にも同じように……?


 俺は鳥肌が立った。

 恐怖すら感じたのだ。


 弘にも相談したが誰がやったのか分からない。


「……どうしたらいいんだよ」


「犯人見つけないといけねぇがそんな簡単に見つかるとも思えんしな」


「流石にやべぇよなこれ」


 弘までが不安気な顔をしている。

 いったい誰がこんなことをしているのだ。


「悪いな、俺部活あるから」


「いいよ、いつもサンキューな」


 そう言って俺は1人で帰路を辿った。

 道中も怪しい視線は感じている。

 付けられていない時間の方が少ないくらいには視線を感じ続けている。


「あれ、昴くんじゃん」


 振り返ると凛がそこに立っていた。


「凛さん、帰り道反対ですよね?」


「最近の君おかしかったからさ。心配で追いかけてきちゃった」


「いや、でも……」


「昴くん……」


 物陰から女の子が姿を現した。

 その子はなんと、以前助けた長岡空だった。


「長岡さん……?」


「昴……くん」


 彼女の表情は狂気に満ちていた。

 目には光がなく、ずっと見ていたら吸い込まれそうな闇だ。

 それでいてこれでもかというほどの笑顔でこちらを見ていた。


「昴くん……そんな女の子こと忘れよ……?」


「言ってる意味が分からないんだが……」


「ね、ねぇ、昴くんこれどういう状況……?」


 何も知らない凛は困惑している。

 俺も状況の整理がついておらず困惑している。


「私ト一緒ニ……イヨ……?」


 後ろに組んでいた手がだらんと垂れると、その右手には包丁を握っていた。


「……! な、何する気だ……!?」


「ズット……ズット一緒ニ……イテクレル?」


 狂ってる。

 理解できないこの状況に俺の思考は鈍る。

 隣では凛が腰を抜かして座り込んでいる。


「昴クン……ネェ、昴クン……?」


「く、来るな! お前みたいなヤバいやつと一緒になんか……」


 そう声をあげると長岡の表情が一変する。

 目を見開き、怒りのような憎しみのような表情で俺たちを凝視する。

 そして、今度は微笑みゆっくりと口を開いた。


「ずっといっしょにいられるよ」


 グサッ


 長岡はそう言った直後、刃物が何かを刺した音がした。

 見ると、長岡は自分自身を持っていた包丁で刺したのだ。


 俺は呆気にとられ、声を発することもその場から動くことも出来なかった。


「うぐっ……これで、ずっト……いっシょ……」


 そう言うと震えた手で今度は自分の首を刺した。

 長岡はその場に倒れ込み、辺りには血溜まりができた。



 その日から俺はずっと夢に見る。

 彼女が自殺したあの瞬間を。


 寝れない夜が続いた。


 たまに寝るが、あの日のことが夢に蘇る。


 そして、ある時、夢の中で……


「ずっといっしょ……だよ?」


 狂気に満ちた笑顔で彼女が俺に語りかけてきた。


 もう……無理だ……


 夜中午前2時


 俺は家を飛び出した。






 そして、二度と家に帰ることは無かった。

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ずっといっしょ 大和ラカ @raka8rio

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