見た目ヤンキーの大瀬崎くん、ボカロP始めました。

猫捨澪音

プロローグ

皆さんは「将来の夢」を持っていただろうか?


それはスポーツ選手だったり、医師だったり、最近だとYouTuberだったりするのだろうが、現実的にはどこかで折り合いをつけなければいけない場合がほとんどだ。


俺の場合は「作曲家」だった。そしてそれを現実にするのが如何に困難な事か、幼心なりに理解していた。しかし。


「〜♪〜〜♪」


 画面の向こうで、電子の世界の「彼女」が歌っている。

 素人の自分が書いた詩を、素人の自分が作った曲に乗せて。


 最終チェックは……多分大丈夫。軽く深呼吸をして「アップロード」のボタンをクリック。


この瞬間に自分が作った曲が全世界に配信されたのだ。

高揚感と僅かな不安。果たしてどれだけの人が自分の曲を聞いてくれるのだろうか――


技術の進歩によって、俺は学生ながらにして「夢」を叶えることが出来た。俺はまさに「作曲家」になることが出来たのだ……アマチュアもいいところだが。


 10年くらい前だったと思う。

 超大手検索エンジンのCMから流れる機械音声は、なんとなくTVを眺めてた俺の意識を一気に引き付けた。


 世界中の人が「彼女」をプロデュースし、世界中の人が「彼女」に熱狂した。誰もが皆、ファンでありプロデューサーであったのだ。


 「Everyone, Creator」――当時10歳の俺、大瀬崎悠斗おおせざきゆうとの人生を文字通りに一変させた音声合成ソフト『VOCALOID』との出会いである。


 出会い、そして始まりの季節。春。

 何かを始めてみようかと、気まぐれで手に取ったのはあの日の憧れで――


 激動の春が、始まる。



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