暁月は零に至りて

芋メガネ

プロローグ

冷たき甲板の上、曙色の空に月が浮かぶ。

それは闇の中で二人の輪郭を形取る唯一の光を放つ。

赤に塗れた男は漆黒の刃を鞘に納め、今一度異形の姿となりし8本の剣を携えた剣士を捉える。

「これだけの傷を負ってもなお立ち続けるとは……大したものだな、月下の剣士よ。」

「……………………」

男は答えず。否、答えることはできず。

男の肺は破れ、骨は砕け、その目に光はもう映ってなどいない。

されどその瞳に宿した闘士は決して消えることなく、静かなれど溢れんばかりの殺気を際立たせていた。


「改めて聞こう。貴様のその剣は何のための剣だ?」

投げられた問い。

男は微動だにせず。

ほんの少しだけ息を吸い、静かに答えた。

「守る…………為だ…………」

「…………そうか。」


瞬間、二人は地を蹴る。

柄に手を乗せ、今互いを必殺の間合いに捉えた。

「これで終わりだ、稲本作一……!!」

振り上げられた8本の剣、その全てが稲本目掛け振り下ろされた。

決して避けられぬ刃の群れ。

それでも、男は止まることなく前へと足を運んだ。

「月下天心流—————」

その眼に映りし、光を手にする為に。

これは彼の、終わりにして、

「零の太刀——————ッ!!」

始まりの物語である。


『暁月は零に至りて』

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