第19話解決の道
六月九日から「株式会社DNAの倒産」について、ニュースで四六時中報道されるようになった。ニュースによると株式会社DNAの倒産により、失業者が子会社も含めて約五千人になり、経済的損失額は百億円を超える金額になった。更に株式会社DNAの運営する「横浜DNAベイスターズ」と「川崎サンダーズ」と「DNAランニングクラブ」が解散し、日本のスポーツ業界にも大きな打撃を与えた。そして何よりも、この事件が「空前絶後のサイバー犯罪である。」という事に世間の注目があつまった。セキュリティに消されない強力なマルウェアを作ったのは一体何者か?そしてDNAを倒産させた犯人の動機は何か?この疑問に世間は、老若男女問わず個々の答えを持った。
『きっとアメリカの組織だよ。』
『いや、DNAを潰したいライバル企業が、極秘に開発させたんだ。』
『もしや伝説のハッカーの再臨か!?』
ありもしないことや裏付けされていない情報がネットの中に出現した、やはりいつの時代にもこうした噂が集まる場所はあるのだ・・・。
警視庁捜査一課の古井はこの難事件に頭を抱えていた、犯人への手掛かりは無く、犯人候補はまさかの小学生だ、その小学生の身元すら分からない。刑事を続けてきた古井にとっては、究極の問題を突きつけられた気分だ。
「はあ・・・、一体どうなっているんだ・・・。」
古井は刑事にとって後ろ向きなため息をついた、その時電話が鳴ったので古井は受話器を取った。
「はい、警視庁捜査一課です。」
「私は池袋でマンガ喫茶を営んでいるものですが・・・。」
古井はタレコミ電話だと察した。
「はい、何でしょうか?」
「そちらの似顔絵のポスターの顔に見覚えがあり、電話をしました。」
あの時橋田の証言を参考に書いた似顔絵は、ホームページで公開したりポスターにして町中に張ったり、事件現場付近の住人に配ったりした。
「それで、その顔をいつどこで見ましたか?」
「五月二十七日の午前十時頃に来店しました、服装は緑のシャツにグレーの短パンでしたね。」
「何か不審な点はありませんでしたか?」
「特に無いですね・・・、防犯カメラを見ましたが普通に過ごして帰っていきました。ただ受付の時に、名前を書いてもらいました。」
古井は表情に出さないが「よっしゃ!」と感じた。
「それで名前は?」
「池上神です。」
「イケガミシン・・・。苗字は池上ですか?」
「はい、ただ名前が神ですね、神様の。」
シンが名前なら進や伸があるが、神という字は珍しい。
「わかりました、ご協力ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
古井は通話を切った、そして捜査主任にタレコミ電話の件を伝えた。
「なるほど、その池上という少年は以前にもそういう場所に来ていたという事か・・・。」
「おそらく犯行のための場所を探していたのでしょう。」
「よし、現場付近のネットカフェとマンガ喫茶の経営者、後住人に聞き込みだ。」
「はい、わかりました。」
こうして翌日から聞き込み捜査が始まった、しかしいくら古井がマスクをしていても、人との接触を避けたいこのご時世に聞き込みに答えてくれる人は、全然いなかった。しかし経営者は全員聞き込みに答えてくれた、その情報を要約すると日時と服装は違えど池上神が来店してきて、一時間程利用して帰っていったという。大人ならただの客だが、やはり小学生ということで全員の脳裏に焼き付いていたようだ。古井はこの事を、捜査主任に報告した。
「つまり池上神はマルウェアを安全に送信できる場所を下見していたということか、小学生にしては用意周到だな・・・。」
「はい、私も正直信じられません。でもこれで池上神が、真犯人に近い人物であることが分かりました。」
「わかった、上層部に報告しよう。」
捜査主任はそう言って、古井から捜査資料を受け取った。
六月十一日、寛太郎は葛藤の念に駆られていた。大逆転オセロシアムが消えたことについては満足している、しかしまさか運営していた会社まで倒産してしまうことになるとは、微塵も思っていなかった・・・。
「僕はただ大逆転オセロシアムが無くなればそれで良かった・・・、でも今回の事で無関係な物まで消えてしまった・・・。」
事実DNAが運営していたスポーツチームは解散となり、ファン達はそれを心から残念がっている。
「でもこれは結果だから、受け入れるしかない・・・。」
口では言えても現実はとてもキツイ・・・、世の中にはそんなことが多々ある。寛太郎は犯罪の代償として、重い十字架を背負わされたのだ。今はその十字架の重みで、やるべきことが手に着かない。明後日のバーベキューの用意は済ませているが、今は楽しみな気持ちにはなれない・・・。
「はあ・・・・、せっかくのキャンプだけど、断ろうかな?」
ふとそんな考えが頭をよぎった。しかし相手に申し訳ないし、何よりそれを楽しみにしている自分がいるので、断ることはしなかった。もう二日の辛抱だ、後はバーベキューで忘れてしまえばいい・・・。
そしてバーベキューの日を迎えた、名古屋駅に十時十分に到着した。そしてそれから十分後に、佐野勇次郎が到着した。
「おっ、早いじゃないか。」
「まあね、それではちょっと撮影するね。」
「もちろん!!」
今回のキャンプの事をYouTubeに投稿することは、佐野も承知済みである。佐野は【アウトドア男】というチャンネル名でユウーチューバーをしており、大学でサークル活動をしていただけあって、かなり本格派である。寛太郎と佐野はそれぞれの撮影を済ませると、大高緑地へと向かった。大高緑地へ行くには、名鉄名古屋本線の東岡崎行きに乗車し、左京山駅で降りる。後は歩いて二分で到着だ。十一時前には、大高緑地に到着した寛太郎と佐野は、一通り撮影するとテントの設営を始めた。
「佐野さん、何をすればいい?」
「いいや、一人でできるから大丈夫。それより俺のカメラを、こちらに向けて置いてくれ。そしたら、俺のことを撮ってもいいから。」
寛太郎は言われた通りにした、佐野は大きなリュックサックからテントを取り出すと、慣れた手つきで設営した。次はバーベキューだ、大高緑地にはバーベキュー場があるので、寛太郎が持ってきた食材だけでバーベキューが出来る。野菜・豚肉・ソーセージ・海鮮を金網の上に置いて、炭火で焼き上げていく。そしていい匂いがしてきたところで、お互いに動画を撮影し、食事風景の撮影に入った。
「いやあ、やっと外に出れたなあ。」
「うん・・・、ちょっと相談に乗ってくれ・・・。」
「ん?いいけど、何かあったのか?」
寛太郎は抱えている悩みを、早く吐き出したかった。
「実はリモート通信で、とある小学生と知り合って・・・。その小学生が、とんでもないことをするって言った。」
「とんでもないって・・・何を?」
「コンピューターウイルスを、ある会社のパソコンに送り込む。」
「え!?それは冗談か何か?」
「違うんだ!?現に、その会社が倒産したって大きな話題になってて・・・。」
「それって・・・DNAか?」
寛太郎は頷いた、ここまできたらもう全て話すしかない。話を聞いた佐野は寛太郎に言った。
「それで、あんたはその少年に手を貸したことは、後悔しているんか?」
「うん・・・、今にでも自首したいけど、その前に彼に会いたい。」
「そうか・・・ならそうしたらいい。正直俺は力になれないけど、背中を押すことなら出来る。正直に思っているんなら、動くしかない。」
「ありがとう・・・。」
そして寛太郎は決意した、池上に会いに行って話をすると・・・。
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