第16話【ラストアタック】そして放たれた・・・。
五月三十日、寛太郎はYouTubeの撮影をしているところだった。
「そういえばもう五月も終わりですね・・・、知っている方もいると思いますが明日いよいよ、謎のブラックハッカーが行動に出ます。どうもこの行動でDNAが倒産するというのですが、一体何が起こるのでしょうか・・・。ということでこの動画は以上です。高評価とチャンネル登録をよろしくお願いします。それではさようなら。」
動画の撮影が終了し動画を投稿する、そして喉が渇いて牛乳を飲もうと冷蔵庫へと向かおうとした時、電話が鳴った。
「もしもし?」
「寛太郎、元気か?」
受話器から浩二の声がした。
「うん、どうしたんだよこんな時間に・・。」
「おいおい、まだ夜中じゃないんだからそんなこと言うなよ。こないだ、母さんと電話した時急に電話を切っただろう?」
「うん、面倒になりそうだったから切った。」
「はあ・・・、お前さいい加減に仲直りをしろよ。」
「じゃあ、どうして仲直りしなきゃならないの?」
「いつもそれだよ、じゃあもし母さんが危篤になってお前だけ門前払いされたら、悲しいだろう?」
「確かに追い出されるのは辛いけど、人間いつかは死ぬからそう思えば、どうという事はない。」
「お前覚めすぎだよ、少しは人情というものを持て。」
「それはいいけど、浩二は何しに電話を掛けたんだ?」
「ああ、本題を忘れていたね。兄としてはこんなことを頼むのは恥ずかしいけど、お金を下さい!!」
「お金・・・五万円までならあげるけど?」
「おお、五万程度なら十分だ。本当にありがとう。」
「けど、どうしてお金が必要なんだ?退職した後、バイトしてるんだろ?」
「ああ、けど来月からバイトの給料が下がることになったんだ、こんなのって本当にありなのか・・・。」
「どうしてそんなことに?」
「後から俺みたいな人達が沢山入ってきたからだ、もういろんな年代の人がいたよ。」
新型コロナウイルスの影響下でも日本の失業率は二%と低いが、外出自粛と営業自粛により一時的に退出した労働者が急増しており、それらを合わせると八百万人程が失業しているという。
「そうか・・・、見えてないところで影響を受けている人達がいるんだな。」
「ああ、俺もその人達見てたらやり切れなくなったよ。」
「じゃあいつ五万を渡せばいい?」
「明日、俺の方から取りに行くよ。時間はお昼ごろかな?」
「わかった、それじゃあ・・・。」
と寛太郎が受話器を置こうとした時、浩二から待ったをかけられた。
「今度は何?」
「実は来月の四日、俺の代わりに出席してくれないか?」
「四日なら体開いているけど、何に出席するんだ。」
「娘の入学式。」
「えっ、夕夏ちゃんの!?」
そういえば夕夏を最後に見たのは三年前、あの頃は小学二年だったから、今年の進級で小学五年生になる。
「その日どうしても互いに仕事が外せないんだ、頼む!!」
「はあ・・・、いいよ。それで来る時間と集合場所は?」
「午前八時に、名鉄瀬戸線の森下駅に来てくれ。妻を待たせておく。」
「わかった、瀬戸線の森下だな?じゃあまた。」
「ああ、電話が長くなって申し訳ない。」
こうして浩二との通話を終えた。
「ふう・・・、ていうか人情を持てと言っておきながら、自分の娘の入学式の日に体を開けないとか、本当に何なんだよ・・・。」
寛太郎は心の中で悪態をつきながら冷蔵庫に向かい、棚から牛乳のパックを掴んだ。
そして五月三十一日午前十一時三十二分、池上家の二回にある池上神の部屋。
「これで完成した・・・、僕が作った最強のコンピューターウイルスだ!!これならあのコロナウイルスのように、ネットの世界を大パニックにさせることが出来る。もちろん、父さんの会社のセキュリティーすら防げない。本当に最高だよ!!」
池上はパソコンの画面を見ながら、悪の科学者のように笑い出した。
「これでやっと復讐できる・・・、自分の見栄と将来のために僕を弄んできた父に、今こそ裁きを下すのだ!!」
神は五歳の頃からコンピューターに関心を示し、そのテクニックを父・御守に見出された。それから御守は何かに憑りつかれたかのように、神にコンピューターの英才教育を始めた。まず知り合いのコンピューターの専門家を講師として雇い、神を当時通っていた幼稚園からやめさせ、一日六時間の指導を開始した。更に小学校へ入学する時に、神を知り合いのアメリカ人にホームステイさせ、そこでもコンピューターの英才教育を行った。なおMENSAの会員証とブラックハッカーのテクニックは、この時に獲得した。そして神は日本に帰るときに「日本に帰ったら、父に復讐して、僕は自由になるんだ。」と心に誓い、そして帰国後御守に隠れてコンピューターウイルスの制作を開始した。しかし御守は神の英才教育を学校行事よりも優先させ、もう少しで裁判沙汰になるほど学校と揉めたことがあった。神はそれ故に我が家の異常さを感じ、それを恥じらい不登校になった。それに対し御守はむしろ英才教育のいい機会だと、神の不登校を改めさせる事をしなかった。
「僕がこんなになったのは、父のせいだ。いくら僕がパソコンが好きだからって、なんでこんなに押し付けられなければならないんだ!!どうしてパソコンに興味を持ってしまったんだ・・・。」
池上はパソコンに興味を示してしまった自分が恨めしくなった、池上は自作のウイルスの入ったメモリーをシャツの胸ポケットにしまうと自分の部屋を出た。神の両親は共働きで、基本的に家政婦が神の世話をしている。しかし新型コロナウイルスの影響で、家政婦も外出自粛をしなければならず、、今日は来ていない。神は、服を着替えて靴を履いてドアを開けると、鍵を掛けて家を出た。
五月三十一日、株式会社DNAでは警視庁と池袋所轄署から刑事が、そしてインターネット・D・Tの社長と社員らが来ていた。謎のブラックハッカーがハッキング攻撃を開始するのを見計らい、逆探知をして謎のブラックハッカーの居場所を探るためだ。
「こちらの体制は万全だ、何時でもハッキングされていいように準備はしてあります。」
DNAの社長に池上御守が言った、御守はこの日のために腕利きのホワイトハッカー部隊を編成し、DNAの全てのコンピューターを監視させている。謎のブラックハッカーにこれまでメンツを潰された御守にとって、これは社運を賭けた戦いなのだ。
「もうハッキング騒動は嫌ですからね、頼みますよ。」
DNAの社長が、御守に念を押すように言った。
「大丈夫です、犯人は必ずこの時に尻尾を出します。絶対に逮捕して見せます。」
捜査一課の古井がDNAの社長に言った。そして正午になったころ、DNAのパソコンに異変が生じた。
「大変です!!ウイルスが侵入してきました。」
「ウイルスだと!!ハッキングじゃないのか!!」
「しかも新型のウイルスです、我らのセキュリティーが一切通用しません!!」
「何としてでもウイルスを撲滅せよ、このコンピュータを守るんだ!!」
「おい、ウイルスの侵入先を特定するんだ!!」
社内は爆弾が見つかったかのように人々が騒ぎ出し、コロナウイルスよりも人々をパニックに陥れた・・・・。
その頃、寛太郎が大逆転オセロシアムをプレイしていると、突然画面が歪みだした。
「えっ・・・何だこれ!!」
寛太郎は慌てだしたが、池上の事を思い出すとふと冷静になった。
「そうか、ついに池上が動いたんだな。」
そして強制ログアウトされ、大逆転オセロシアムのアプリがスマホ画面から消えた。寛太郎は一分間呆然とした後、喋りだした。
「アプリが消えた・・・本当に大逆転オセロシアムが消えた・・・ハハ・・・ハハハハハ!!凄いよ池上君、君は本当の天才だ!!」
寛太郎は狂いながら池上を称えた、だが池上のコンピューターウイルスの驚異を称えていたのは、全世界の人類の内で寛太郎だけだった・・・。
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