第4話親or同じ血を持つ他人
四月十四日、バイト帰りの寛太郎はふと池上と話してみたくなり、リモートで池上を呼んだ。
「池上君、今いる?」
〈寛太郎さん、どうしました?〉
「僕がYouTubeに投稿した動画みた?」
〈見ました、とても良かったです。さすがユウーチューバーですね。〉
「褒めてくれて嬉しいよ、でもコメントを見たら賛否両論で、結構批判されたり理解してくれてたりで、複雑だったよ。」
〈まあ、当然の結果ですよ。オセロシアムを純粋にしている方すれば、ただのたわごとに聞こえますし、不満を感じている方には、理解者に聞こえる。インターネットのコメントというのは、そういうものです。〉
「そうか・・・・、ちなみにジェンイーラニーさんは批判側で、ビクトリア―ズは理解者でした。」
〈そうでしたか、それではこれで・・。〉
池上がリモートを切ろうとした時、寛太郎が「一緒に食事しないか?」と言った。池上は寛太郎の誘いに乗り、食事の用意のため互いに一旦リモートを止めた。そして寛太郎は手作りの焼きそばを皿に盛り、リモートを起動した。
「池上君、用意できた?」
〈はい、用意できました。〉
池上が用意したのは、デリバリーであろう寿司である。
「池上君って、お昼はいつもそう?」
〈両親が家に居る時は手作りですが、今は両親とも働いていますので、好きなデリバリーを頼んでいます。〉
「親とはよく会話をするの?」
〈いいえ、一緒に食事はしますが、喋るのは両親だけです。所で寛太郎の所はどうですか?〉
「私ですか・・・もう一人暮らし六年目で、実家へは正月かお盆ぐらいかな。ていうか、親とケンカしたことが一人暮らしを始めるきっかけだけどね。」
〈親とケンカ・・・一体何があったのですか?〉
「やはり気になりますか・・・、それでは池上君にだけ話してあげるね。」
今から十年前、寛太郎の父親が脳梗塞で倒れた。幸い命に別状は無く退院できたが、運動障害になり一人で立つのも一苦労するようになった。それから父親はリハビリをしながら、母・浩二・寛太郎の三人で介護をした。ところが父親は介護してもらっているという事を楽に捉え、細かな用事を言いつけるようになった。
(母さん、お茶!!)
(浩二、靴下持ってきて。)
(寛太郎、耳かき!!)
命令口調でどこかの国の王様のような態度、さらにはリハビリも疎かになり、働いていた時よりも明らかに太ってしまった。母と浩二は次第に文句を言い、そして父親は従順な寛太郎にのみ用事を言いつけるようになった。だが次第に寛太郎は父親に嫌気と不快を感じ、命令を拒むようになった。
(おい、早くお茶を持ってこい!!)
(うるさいなあ・・・、それぐらい自分でしろよ。)
(俺は病気で動けないんだ!!)
(じゃあ、何でトイレは一人でできて、お茶くみは出来ないんだよ!!)
こういうやり取りは、お風呂場でも・・・。
(おい、寛太郎!!バスタオルを持ってきてくれ。)
「はあ・・・・・、風呂に入る前に用意してよな・・・。」
そしてバスタオルを渡して立ち去ろうとした時・・・、
(おい、ついでにシャツとパンツ!!)
「ぐっ・・・・・はあ・・・。」
こうして寛太郎は、ストレスを溜めていった。そして時々そのストレスが爆発して、父親を殴ったり、強引にお金をとったりしていた。最初の内はその後にすぐ謝罪していたが、段々罪悪感を感じなくなり謝罪も無くなった。しかしこのままでは父親の将来にも悪いということで、美麗の計らいによりリハビリ専門のデイサービスに通わせることになったのだ。
〈確かにそれは大変な話だね、病人でも出来ることはやるべきだよ。ところで、父親は今どこにいるの?〉
「どこにもいない、二年前に交通事故で亡くなった。」
〈その後家族とケンカした・・・それはどうして?〉
「やっぱり気になるよね・・・、根本的には僕のせいだ・・・。」
二年前の四月十日、父親を乗せたデイサービスの送迎車が帰宅途中に事故を起こした。運転手は奇跡的に助かったが、父親は悪運悪く亡くなった。そして警察の捜査により、デイサービスの送迎車の運転手による過失が事故の原因であることが判明した。それを知った美麗と浩二は、デイサービスに対し裁判を起こす事にしたが、寛太郎はそれに猛反対した。
「寛太郎、どうして裁判に反対なんだ?」
「だって、あれ程酷い父親がようやく亡くなって落ち着いたと思ったら裁判なんて・・・、今更死人の事を引きずり出すのは嫌なんだ!!」
「死人とはいえ祐司(父親)でしょ、それにあなたと浩二は祐司に育てられたでしょ?」
「それは認めるけど、僕はもう祐司が父とは思えないんだ。家族のためになる事はしない、自分のためのリハビリもサボる、挙句には偉そうにあれこれ命令・・・、もう親父の評価は最悪だ・・。」
「そりゃ、病気になってからはそうだけど・・・八年間でそんなに評価を下げることもないだろ?」
「フン、今まで文句は言ってたけど、僕を手伝わなかったくせに・・・。」
寛太郎は、美麗と浩二を憤慨した。
「寛太郎、あなたの言う通りよ。お父さんの世話をあなたに自然に任せてしまって・・・、本当にごめんなさい。」
「寛太郎、すまなかった。」
美麗と浩二は最敬礼した。
「まあ・・・気持ちが分かってくれただけでもいい。でも、やっぱり裁判は反対だ。」
「おい、どうしてなんだよ!!」
「じゃあ聞くけど、仮に裁判に勝って、祐司にかかった八年間の金を取り返せるのか?」
「八年間の金・・・?」
「僕は家計を任されているから把握できる、通院とデイサービスとこの家のバリアフリー化でしめて三百九十万円だ。」
「そんなにかかっていたのか・・・。」
「それに今、裁判費用の相場は安くても二十万前後はするんだぞ。合わせて約四百十万円かもしくはそれ以上、勝訴して取り返せるのか!!」
「そんなのやってみないと分からないだろ!!それに弁護士費用は俺が出す!」
「そうか・・・じゃあ僕はこの家から出ていく。」
「ちょっと、寛太郎!!どうしてそうなるのよ!!」
「もし勝訴したら、その金は二人で使ってくれ。」
美麗のヒステリーを背に、寛太郎は荷物をまとめて、その五日後に寛太郎は家を出て現在のマンションに引っ越した。引っ越してから一週間で裁判の結果が浩二からの電話で来た、結果は勝訴し五百万円の賠償金が出たそうだ・・・。
〈なるほど、意見が合わずに家を出たという訳ですか・・・、それで今でも両親とは連絡を取っていないのですか?〉
〈連絡は取っているけど、実家には帰らない。」
「そうですか、お互いに家族問題を抱えていますね。〉
「そもそも、家族ってなんだろうな・・・、血のつながりがあるのは認めるけど、それを理由に意見を無視されたり何かを強要されるのは、違うんじゃないかな?」
〈わかります、一種の理不尽ですね。〉
「意見の違いを直して合わせなかった僕が悪いという意見はあるだろうけど、家族に合わせないならそいつは家族じゃないって言っているのと同じだよ。」
〈家族と暮らすか離れて暮らすかは本人次第です、するべきという答えはありません。〉
「するべきという答えは無いか・・・、良いなその言葉。さすがは天才だ。」
〈ふふふ、じゃあ特別に見せてあげる。〉
池上は静かに笑うと、机の引き出しから黒いカードを持ってきて画面に映した。
「これってあの、MENSAの会員証じゃないか!!すげえ、本物か!!」
「はい、日本では十五歳未満では取れませんが、僕は二年間アメリカで生活していて、そこで資格を取りました。」
よくテレビのバラエティーで、ある分野や才能においては大人を凌駕する少年少女を見かけるが、池上はその究極形態だと寛太郎は思った。
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