OVA版天涯のアルヴァリス~未開大陸踏破編~ 二周年記念特別短編

すとらいふ

第一話 鱗翅

お久しぶりデス。2020年6月29日で「天涯のアルヴァリス」初投稿から丸二年経ったデス。


それを記念して今回の短編を書きおろしたデス。新大陸を目指す調査船とホワイトスワンの一行が出会うのは未知なる自然と新たな脅威!


もしアルヴァリス本編を未読の方は、ぜひともそちらを読んでからの方が楽しめる内容となっておりますので、予めご了承くださいデス。


それではどうぞ、ごゆっくりデス!









「うーん、長閑デスねぇ……」


 先生ののんびりとした声。


「いや、先生。そんなところで優雅に日光浴してないでちょっとは手伝ってくださいよ」


「あ゛~ユウ君や、私の仕事は頭脳労働デス。この大陸の動植物の解明や地質、天候、文明の有無やその接触などなど、やることは一杯あるデスからね。今ここで十分に英気を養わないと今後の活動に影響が出てくるデス」


「またそんな事言って……」


 ジトーとした目で見てくるユウを尻目に、先生はビーチチェアを湖のほとりに置いてそこに寝そべっている。もちろん、いつもの白衣のままでだ。


「ユウー? そっちの準備はいい? ポンプを動かすわよ?」


「あ、もう少し待って、クレア! これから取水ホースを湖に入れるから!」





 * * *





 ユウとクレア、先生らを乗せた巨大な新大陸調査船は十日ほど前に未発見の大陸と思しき陸地を発見。すぐさま調査隊が編成され、新たに建造されたホワイトスワンMK-Ⅱがその調査に出発したのだ。




 ユウにとっての異世界、ここルナシスではアムリア大陸から人類は外に出ることが出来ていなかった。この世界の先住民であるアムレアスらも他の大陸や陸地を知らず、しかしこの惑星の大きさからすれば他の大陸は存在してもおかしくないというのが先生を始めとした学者らの意見だった。


 もともとそういった調査や外洋を自由に航海する計画は度々浮上していたらしい。しかしオーバルディア帝国の軍事的行動や圧力などもあり、各国にそういった余裕は無かったのだ。そこへ戦争終結と同時に周辺各国との協調路線へと方向転換した新たな帝国の首脳部の意向により、かつての都市国家連合やグレイブ王国などが一丸となって推進したのが今回の計画だった。


 もちろん各国の様々な思惑があるのだろう。選出された乗組員はそれぞれの国家代表とも言うべき重要な役割を担っている。積み込まれる物資の一つですら複数の国が互いに牽制、あるいは譲り合うという水面下での睨み合っていたという。




「はぁ~ここ最近は部屋に籠って論文書いてるか新種のサンプルを調べるばっかりデスからね~。たまにはこうして紫外線を浴びないと身体に悪いデス」


 だがそんな事情は知らぬとばかりの先生。彼女にとってはそんな腹芸は自分の研究論文にとって一行も役に立たないと割り切っている。もちろん未開の大陸を調査するという一大計画に心躍るものはあるが、先生が持つ技術と知識を狙う国同士のいざこざから離れるためのいい切っ掛けでもあったのだ。




 ……ゴボゴボゴボ……


 灰色の長いホースが湖の水を取り込み、ホワイトスワンへと送り込まれている。色々と物資は詰め込んであるが、やはり長期間の探索ではこうして水などを補給しなければならない。


「ここは我々にとって未開の大陸デスからねー。未知の物質が水に溶け込んでたり、殺人アメーバが潜んでるかもしれないデスから迂闊にそこら辺の水はそのまま飲んじゃいけないデス。でも! 私が作った濾過装置にかかれば泥水だろうが工業排水だろうが、たちどころに喉越し爽やかな飲料水に生まれ変わるデス!」


「誰に向かって言ってるんですか先生……?」


「フッ……細かい事は気にしない方がいいデスよ、ユウ」


「はぁ……」


 いつもの調子な先生に呆れるユウ。ひとまずは自分の仕事を全うしようと小さく波を立てる湖面へと視線を戻す。水は比較的透明度が高く、少し向こうを見れば魚らしき影も見えるほどだ。


 目の前に広がるこの湖はかなり大きく、対岸のほうはやや霞んで見えるくらい離れていた。その向こうにもさらに森は広がっており、この周辺一帯は手付かずの大自然が広がっているという印象だ。


あっちアムリア大陸だと町や村に近い森なんかはここまで木が密集してたり草が生え放題になってませんでしたよね?」


「そりゃ、地元の人間が適度に木を間伐したり手入れしてるんデスよ。そうしないと人里に近い所で獣が増えたり、それを狙った魔物がやって来ることが多いデスからね」


「へぇ、そうなんですか。という事はこの辺りは……」


「ま、少なくとも人間はいないデスね~。文明の痕跡も今の所は見つからないデスし」


 ホワイトスワンが調査船を出発してからおよそ一週間。一行は慎重に周辺の調査を行ってきたが、見つかるのは新種とされる植物や動物、虫の類ばかりで人がいる様子は全く無かったのだ。


「まだまだ調査は始まったばかりデスよ、ユウ。それにこの土地固有と思われる数多くの動植物が見つかっただけでもかなりの収穫デス」


「ですね、僕としてもこのまま平和に調査が終わってほしいですし……ん?」


 視界の端にチラと見えた何かを追うユウ。無数の小さな何かが森の方からこちらへとやってくるではないか。赤、青、紫……それらが斑に広がり、狭まったりしながらまるで煙のように流れ込んでくる。


「あれは……蝶……?」


 近くまで来たソレはヒラヒラと宙を舞う蝶だった。鮮やかな羽をしているが、なかなかに大きい。ユウの手のひらを目一杯広げたよりもその蝶は大きく、こんなのがすぐ近くを飛べば多少の虫は平気なユウでも少々肝が冷える。


「こんな蝶は見たこと無いデスね……早速捕獲するデス!」


 ぴょいとビーチチェアから飛び降りた先生はすぐさまホワイトスワンの方へと駆けていく。虫取り網とカゴを取ってくるつもりなのだろう。


「……それにしても数が多いなぁ」


 既に辺り一面は蝶の群れでいっぱいになってしまった。右を見ても左を見ても、蝶の赤や青といった色で鮮やかに彩られている。見ようによっては幻想的なのかもしれないが、ユウには底知れない何かを感じる。


 と、湖に入れたはずのホースから音がしなくなっている事に気付く。さっきまでは勢いよく水を吸い込んでいたはずなのだが、今ではうんともすんとも言わない。


「あれ? おっかしいな……まだ貯水槽は満杯にならないはずなのに……」


「ユウー! ちょっと来るデス!」


「どうしました先生? そんなに慌てて」


「異常事態発生デス! スワンの理力エンジンが止まったデス!」


「えぇ?!」



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