7話 知りたくなかったこと

コンコン

ドアをノックする音が聞こえる

「莉彩ちゃん、入るわよー」

「どうぞ」

莉彩ちゃんの叔母さんがトレーを片手にドアを開ける

トレーには私が持ってきたフィナンシェ?と、いい香りのする紅茶、砂糖、ティースプーンと言うものが乗っていた


「ごゆっくりどうぞ」

そう言い残すと直ぐに部屋を出ていってしまった。


「いい香りね」

ティーカップを顔の近くへ運び香りを楽しんだ後、1口口に含んだ。

そして、僅かにうっとりとした顔をしたかと思えば、またすぐに無表情になり、

「そういえば、聞きたいことがあるみたいだけれど、何?」

また顔に出ちゃってたみたい。


「私ってそんなにわかりやすい?」

「そうね。わかりやすいし、さっき猫を連れて部屋に入ろうとした時に律葉ちゃんの独り言少し聞こえちゃったのよ。」

なるほど、声に出てたのか。


「それで、何?」

「…えっとね、莉彩ちゃんさっきお家の人のこと『おばさん』って呼んだでしょう?あの人莉彩ちゃんの叔母さん?どうして莉彩ちゃんのお家にいるの?」

「…!」

莉彩ちゃんはあの無表情から一変して、びっくりしている顔をした。

おー、莉彩ちゃん、ちゃんと表情あるじゃん。


「……はぁ、あの人は私の親戚よ。そして私の保護者なの。」

深呼吸してからそう言うと、言い終わる時には既にまた無表情になっていた。


「ん?親戚なのに保護者なの?」

「そうよ、私の里親。」

「お母さんは?」

「さぁ、どうしているかしらね。」

「なんでお母さんと暮らさないの?お父さんは?」


「……いい?これから見たもの、聞いたものは他の人、例えばご両親やご兄弟にも喋っちゃダメよ?…そして、大きな声を出さないこと。いいわね?」

「う、うん」


私が返事すると、莉彩ちゃんはおもむろに着ているものを全て脱ぎ始めた。

「わっ」

私は何故か女の子同士なのに、後ろめたい見てはいけない気がして目を背けた。

「それじゃあ見れないでしょう?」

「い、いきなり脱ぐからびっくりして…」


そう言って莉彩ちゃんの方を見ると、服で隠れていた部分があらわになった。

おびただしい数の切り傷とその傷跡、それに所々黄色っぽく変色していたり、治りかけの痣があったりした。さらに、火傷みたいな痕も様々な大きさでいくつかあった。

「!こ、これ、どうし…むぐっ」

「しーっ、静かに」

思わず大きな声を出してしまい莉彩ちゃんに口をおさえられた。


私は声のボリュームを抑えて、

「これ、どうしたの?」

と聞いた。

「私の両親がしたのよ、全部。」

顔色1つ変えずあっけらかんと言った。

「…なんで、なんで親がこんなことしたの?」

怖くなって、震える声でそう聞いた。


「分からないわ、私のことがよっぽど嫌いだったのかもしれない。」

「お、親なのに嫌いなの?嫌いだからってこんなこと…!」

「しーっ、また声が大きくなってる。」

「…そうよ。親だからと言って自分の子供を好きとは限らないものなの。世知辛いけれど。」

服を着ながら淡々と莉彩ちゃんはそう言う。


「この傷痕…消える、よね?」

「ほとんど消えないと思う、手術でもしない限りは」

「そんな…。それじゃ着たい服も着れないじゃん…」

「なんでもいいから服が着れるだけで幸せなことなのよ。前は服が古くなって着れなくなってもなかなか買って貰えなかったもの。」


「……。」

「律葉ちゃん、大丈夫?」

「…どうして他の人には言っちゃいけないのに私には見せてくれたの?」

「律葉ちゃんと友達になりたかったから、隠し事はしたくなかった。…でも、こんなものを見せられて寧ろ嫌いになったでしょう?」


「……。ごめんね、今日はもう帰るね。」

私は何も言えずただ莉彩ちゃんのお家から逃げるように帰った。

家に帰ると、お母さんが早く帰ってきたこととと私の様子がおかしかったことで色々聞かれたけれど、答えずに私はお腹が痛いと言って部屋にこもった。





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