たまには帰る

帰ってみてはいかがだろうか。仕事中に一度自宅に、である。住宅営業という業界は半ブラック状態でまじめに働けばブラック、適当に働けばホワイトな業界なのである。どうやってホワイトにするかといえば、朝出勤して顔を出す。会議終了後、外勤行ってきますといってそのまま自宅に帰るのである。夏場は特に暑いから家に帰ってエアコンをつけて着替えてアイスを食べれば完璧、夕方までの時間が浮くのである。こういった感じにホワイトにしている先輩社員がいた。もちろん私は走り回っていたので普通にブラック企業だとしか思えなかったが。私は朝会議が終了すると前日に刷ってあったチラシ300部を手に、もう片方の手に草刈り機をもって車に乗り込むのである。もちろん営業車は自前だ。そこはブラック、抜かりない。スカイラインとかいう車に乗っていたから草刈り機を入れるのに最新の注意が必要だった。下手したらシートが破れるし、ガソリンがかかってしまうと後々掃除が面倒なのである。シートは先取りしていて当時としては珍しくパワーシートだった。このせいで草刈り機を積むのに時間がかかるのである。シートポジションを二つほど覚えられる機能があったが、私は迷わず運転用と寝る用にセットしておいた。午後に差し掛かるころになると300件は回ってしまうのでそのあとは飛び込み営業になる。そこからはiPadを使って経費を抑えるのである。もちろんこれも個人で調達したもの。2012年にiPadをつかって営業をしている人はほとんどいなかったと思うので私のITっ子ぶりが発揮する。そう、その私が4時ぐらいまでかけて合計600件一日に回るのだがその間にも先輩は寝ているのである。新人ていうのは売り上げを出すのが大変でほとんどの営業実績が先輩に持っていかれる。寝ているのに。だったらいっそ私もあきらめて寝てしまおう。そう思ったのが高速道路の下での出来事である。

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