第39話 盛り上がるパーティー
それからも誕生日パーティーは盛り上がり、食事を終えて、私を囲むようにして会話が弾んでいる
「──さあ、それじゃあ始めっよ。王様ゲーム」
「あはは、白い子豚ちゃーん。それを待ってたよ!」
「
「なーに、
私の体に抱きついて、いや絡んでくる美伊南ちゃん。
ううっ、お酒くさいよ。
「何だ。英子全然飲んでないじゃーん。まだ口紅の跡がー。
ああ、ついてない、ああ、飲んでないー♪」
「ほらっ、片想いのグラスに初めてのちゅーしなはい♪」
強引に私のグラスに缶ビールを注いで、押しつけてくる美伊南ちゃん。
まさか彼女が絡み酒とは。
一緒に暮らす
「じゃあ、始めっぞ。さっさと棒を引けひょ」
「蛭矢君、それ棒じゃなくてスルメイカのゲソですよ?」
「ああ、間違えた~ん。こっちだひょっ♪」
「それはポッ○ーですよ……もう見えないなら眼鏡して下さい」
「なんら、メガネ? おじょうたん、僕たんはそんな名前じゃないぞお~♪」
「そうだぞー、大瀬ゲーム始めっぞお♪」
「なるほど、俺がリーダーゆえの王様ゲームか」
良かった。
大瀬君だけは酔ってもマトモだ。
「なっ、ヒデ子ちゃん♪」
「違います!」
だあ、私の呼び名は
大瀬君も普通のふりして酔っている。
もしかして私以外、三人とも全滅ですか!?
「さあ、くじ引け。今、クジラ~♪」
蛭矢君の握った棒を一斉に引き抜くみんな。
「あっ、美伊南が王様じゃーん♪」
「じゃあね、二番と四番がー」
えっ、私二番だよ。
そして、四番に反応する大瀬君。
「唇同士を近づけてー」
ちょっと待って、相手は既婚者なんだけど!?
「変顔のポーズ♪」
「はあ? 何でそうなるのですか?」
「はいはい、二人とも笑っちゃダメよ。あっぶっぶー♪」
私の間近で頬をぷくっと膨らまし、目を大きく開いて寄り目にし、さらに福笑いのようなキテレツな顔つきになる大瀬君。
「ぷぷっ……」
いつもイケメンスマイルの彼がこんな変な顔をするなんて。
これは笑わずにはいられないよね。
「はひっ、英子、笑いまひたね。罰として美伊南特製の青汁を飲めえー♪」
うわっ、美伊南ちゃんが物凄い香りのするジュースを勧めてくるよ……。
一体何が入ってるんだろう。
「ライジョーブ。
「何てものをいれるのですか! これ、もう罰ゲームですよね!?」
「罰ゲームじゃないよんー、王様ゲームだひょ」
語尾がメチャクチャで目の据わってない蛭矢君がユラユラとにじみ、踊っているように見える。
そうか、私はあまりの恐怖のために泣いているのか……。
でも、ゲームなんだもん。
嫌でも飲み干すしかない。
いや、たったの200ミリ入りくらいのグラスだ。
息を止めて飲めば何とか耐えられるはず……。
「ごくごくごっ……ふぐっ!?」
その強烈な臭みの青汁を一気飲みで空にした後、私はその場にバタリと倒れこんだ。
「あーあ、やっぱり隠し味にヤモリちゃんを入れたら駄目だったかあー♪」
「家の守り神だけあひ、体をみゃもってくれそうな気配はあったんだけどなあ~? ひっく……」
「ああ、豚骨ちゃんもそー思う?」
「今回は僕の素材集めのミシュだったひね」
「ミシュということは一流レストランで三ツ星を確認ひた料理というわけかあー?」
そのミシュの言葉にしゃしゃり出る大瀬君。
「そうか、俺がミシ○ッピ川から汲んできた水だから体にいいはずと?」
「そのミシュじゃねーよ。ミシュランだよ。このポンポコタヌキ」
「なっ、この俺がタヌキだと? お前、表出ろやあ!」
「何やて、表に出て何をどーすんのよ。この変態エロタヌキがーあ!」
「……ちょっと二人とも喧嘩は止めて下さい」
ようやく私は持ち直し、二人を
「英子ちゃん、これも一つの愛情表現らよ。うぷっ……」
蛭矢君が溜まりに溜まったナイヤ○ラの滝を勢いよく放出しそうになる。
ちょっと、こんな所で汚さないでよ?
ああ、洗面器か、バケツを用意しないと……。
そもそも医者なのにアルコールをガバガバ飲んで……許容範囲というのを理解していないのかな……。
「──さて、それじゃひゃ、ゲームの続きを始めっぞ」
蛭矢君が口から虹の滝を出してから蘇り、またしても彼の指示でクジをひくみんな。
「……あっ、私が王様だ」
「……じゃあ、一番と二番が……」
「「はい、はーい♪」」
私が口に出した瞬間に美伊南ちゃんと大瀬君がとっさに反応して手をあげる。
それじゃあ、王様ゲームの面白さが半減するじゃん。
「──じゃあ。はい、抱きあって仲良しをする」
「えっ、しょーがないなー」
「分かった、おいで子猫ちゃん」
「大瀬パパ、にゃおーん♪」
大瀬君が甘いマスクで両手を大きく広げながら美伊南ちゃんを迎え入れる。
その体にしかりと抱きつく美伊南ちゃん。
「……何か父と娘の再会みたいで泣けてくるな」
これこそ信頼できる夫婦の証。
その様子を見つめていた蛭矢君が眼鏡を外し、目頭を押さえている。
「……蛭矢君、その調子だと酔いが覚めたみたいですね」
「ああ、すまなかったよ。悪ふざけが過ぎた」
「別にいいですよ。たまには
「そうそう。この職業って意外とストレスが溜まるんだよ。どこかで発散しないとさ……ところで英子ちゃん……」
蛭矢君が私に向かって笑いかけて、何かを言おうとする。
「えっ、何ですか?」
「英子ちゃん、実は……」
彼が少し迷いながらゆっくりと語り出す。
「──英子ちゃん。実は君が好きだ」
「はあっ!?」
それは突然の告白だった。
何、蛭矢君、まだ酔っているの?
「返事は今日じゃなくていいから……じゃあ、僕は帰るよ」
蛭矢君が仲良し夫婦にも別れを告げて、玄関で革靴に履き替える。
その大きな背中に私は問いかけた。
「蛭矢君、何で私のことが……?」
「……何でと言われてもな。恋をするのに特別な理由がいるかい?」
そう言って彼は、どこかの飼い犬が鳴き叫ぶ夜道の中を帰っていったのだった……。
私は蛭矢君の返事にどう答えたらいいのだろう……。
第39話、おしまい。
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