第20話 秋の味覚と言えば

 秋も深まり、芸術よりも食欲がまさる季節。


 そんな空腹を誘う季節にズバリ、美伊南びいなちゃんに質問します。


 秋の味覚と言えば?

 

「ピンポーン、えち○製菓!」


 それ、何の真似ですか?


「何、嘘やろ? 英子えいこ、この早押しクイズ形式のテレビCM知らないの? 昭和の世代なら常識だよ?」


 美伊南ちゃん、私たち平成生まれだからね。


 さて、気を取り直して秋の味覚と言えば?


「サンマの缶詰に、イワシの甘露煮かんろにに、アジの南蛮漬けに、冷凍のたい焼きと……」


 あの。

 今、私たちは海にはいないですよ。

 

 それに最後のたい焼きは魚じゃないですよね。


「いや、たい焼きはさかなだよ~♪」

「美伊南ちゃん、未成年の飲酒は駄目ですよ……」


 まあ、それはともかく、今日は一緒に秋の味覚を採るために山登りをしているよね。


 その山奥ネタでお願いします。


「──そう、このイントの山奥には、秘められた魔法の調味料、あのイントカレーのスパイスが眠っている……」


 いきなり彼女が真顔になってシリアスな話になったかと思ったら、思いっきり外れた路線できたよ。


「──我々はその茂みを掻き分け、念願のスパイスを手にした。だが、そのスパイスは実際にはカレーではなく、日本中のにゃんこを酔わすマタタビであった……」


 ちょっと美伊南ちゃん。

 私たちはペットの猫は飼ってないよ?


「飼ってるやん、目の前に英子キャッツを♪」

「……はーい。私はあなたに身も心も授けて奴隷になります──って違うでしょ!」


 私は怒り、美伊南ちゃんを遠方から鋭い目線で狙い撃ちするような体勢になる。


「おおっ、やっと重苦しいカレー王国のナレーションから脱皮して抜け出したよ。お疲れさま」


 そんな美伊南ちゃんがパチパチと手を叩いて小躍こおどりしてするかのようにはしゃいでいた。


「美伊南ちゃん、さっきから私の話を聞いていますか?」

「うんっ? 美伊南ちゃん、さっきから私の話を聞いていますか? がどうかした?」

「さりげなく復唱しないで下さい。そこの部分じゃないです!」

「何言ってるの、英単語の宿題はやるだけじゃなくきちんと復唱もしないと駄目だからね」

 

 美伊南ちゃんが明後日の方向を向きながらカメラ目線にウインクする。


「あの……よい子は真似をしないでねアピールは止めてもらえますか?」

「何でね、英子。その感じだと日本中の子供たちが悪ガキに染まっている感じじゃん」

「だからそんな発想する暇があったら、私の質問に答えて下さい!」

 

 そこでぴたりと美伊南ちゃんの動きが止まり、勢いよく右拳を空へと突き出す。


「……質問、アメリコ横断ウルトラクイズ。女神のソフトクリームが食べたいか!」

「美伊南ちゃん。自由の女神が手に掲げているのは聖なる炎ですよ……」

「そうなんだ……うわっ、災害で片足がない女神とかおるし……まさにゾンビやん」


 あの、私の話そっちのけでスマホでググるの止めてもらえるかな?


 ──もうこうなった美伊南ちゃんとの意思の疎通は難しいね。

 暴走女子は放っておいて秋の味覚を探しますか。


「──英子ちゃん、手伝うぜ」

「ありがとう。蛭矢えびや君」


「俺も忘れるなよ。影の薄いリーダーだけどな」

「ふふっ。大瀬おおせ君もありがとう」


「さあ、英子ちゃん、笑う暇があるなら日が暮れる前に探そうか」


 美伊南ちゃんの妄想話から離れた私たち三人は迷わない程度に別々に行動することした。


**** 


 それから数分後、私の胸元のポケットにしまっているスマホから連絡が入る。


『もしもし英子ちゃん、僕ガチで迷ったよ!?』

「蛭矢君、だから迷わない程度に散策と言ったはずですよね? 今どこですか?」

『何か人がいっぱいいる街みたいだ』

「……誰が下山げざんしなさいと言いました?」

『だって味覚なんてコンビニじゃないと買えないだろ? キノコの里とタケノコの里は?』

「それはお菓子ですよ。私たちの当初の目的を忘れていませんか?」

『ホワーイ、納豆?』

「分かりました。もういいです……」 


 私が通話を切ろうとした時、そこへタイミングよく大瀬君からの連絡が届く。


 私は蛭矢君を厳重注意した後にそちらのキャッチホンに切り替える。


『──英子、たくさんキノコを採ったぜ。見た目はえのきたけに近いがな』

「大瀬君、ナイスです。そのまま戻って来れますか」

『了解、英子殿!』


 やっぱり大瀬君は真のリーダー。

 決めるときは決めてくれるね。


『──ひゃははは』

「大瀬君? どうかしましたか?」

 

 ──だけどガラリと変化した王子さまの反応に私は何だか不安になってきたよ。


 嫌な予感がするね……。


『いや、何かおかしくてさ、ひゃははは!』

「大瀬君、もしかしたら勝手に食べたのですか?」


 ──私はキノコ大百科辞典を探している手を止める。


 えのきに似たような白いキノコ。


 私はようやく辞典を見つけ、その考えを頭に置きながらページをめくり、何となく理解する。


 ──そして、ワライダケのページ欄にくまなく目を通す……。


 ──そう普通、エノキタケは熱を通さないと食中毒になる恐れがあり、生で食べるのは厳禁だけど、思っていた症状とは違ったから不思議に思って……。


 私の感じていた通りだったよ。


「大瀬君、それはワライダケという毒キノコですよ。くれぐれも気をつけて下さい」

『ひゃははは、何だって? お腹がよじれて苦しいひゃははは!』


 ──もう私たちのパーティー全滅だね。

 みんなして暴走して、駄目だ、こりゃ……。


 こうして秋の味覚は蛭矢君がゲットしたお菓子だけになり、私たちはふところ寂しく帰宅するのだった。


 折角せっかく、美味しいご飯を炊いたのにね……。


****


「──何の。おかずがないならお菓子を食べなさいって名言があるだろ?」

「……蛭矢君、そう言ったマリーさんの最期を知ってて、そのようなことを言ってるのでしょうか?」

「ああ。とあるギャルゲーで教わったぞ。お金持ちになってアメリコへ高飛びしたんだろ♪」

「……だからゲームばかりではなく、もっと独裁政治について勉強しなさい……」

「メ~アイ、ヘルプ湯?」



第20話、おしまい。

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