第17話 文化祭ならでは

 わたちはおとうさんとおかあさんといっしょに、がっこうのてーまぱーくというばしょにやってきたの。


美伊南びいなちゃん。待ちなさーい!」


 きゃっ。


 きがついたらおねえさんとしょうめんしょーとつ。


 わたちのいのちもここまでか。


 ねんのためげーむののねっとほけんにはいってるからあんしんだね。


「あっ、ごめんね。お痛しなかった?」

「ここはどうぶつえんなのですね……」

「ち、違うよ、今日はこの学校の創立記念日をねた祭だから」

「ああ、とうとうこのまちもどか~んとほろぶひがきたのです」

「それ、火山のだよね!?──ああ、どうしよう。この子、迷子かな……?」


 おねえさんがてをあたふたさせながら、ひっしにわたちにせつめいしてくれる。


「ねえ、パパとママとはぐれちゃったのかな。お姉さんと一緒に探そうか?」


 ──なに、もういちにんまえのれでぃーにたいしてこのあつかい……。


「わたち、もうこどもじゃないもん」

「あっ、ごめんね。じゃあホットケーキでも食べよっか」

「うん、たべりゅ~♪」


****


 ふふっ、私の家の周りには知り合いがよく集まって、みんなでワイワイ騒ぐスタイルだから子供の扱いなら手慣れたもの。


 お客さんのホットケーキの材料まで食べ尽くした美伊南ちゃんを捕まえる延長線で、この子のご両親も探そうか。


 ──しかし、この子可愛いな。

 まだ幼稚園かな。


 目がくりっとして、アイドルみたいで黒を主張に巻き髪の毛を左右に垂らしたツインテールなんて反則だよ。

 

 ヤバい。ヨダレが……。

 私は赤ずきんの狼さんかよ。


 ──さあ、今、私はクラスの喫茶店の活動から休憩をもらった昼食時。


 恐らくこの子も、お腹を空かしているだろうと察した考えが正解だったけど、問題は名物のホットケーキがない今、どうやってこの子のお腹を満たすかだ。


 何も考えずに口を滑らした行為が災いを生んだ。


 さて、美伊南ちゃんどころではない。

 目の前の子供をどうするべきかだ……。


「──そんなガキンチョ、黙って焼きそばを食わせておけばいいんだよ」


 ──どこからか蛭矢えびや君の悪魔な毒舌どくぜつが聞こえてくる。


「いや、それはいけないよ。より良い未来にするために幼女は誉めちぎっておかないと」


 そして、反対側から大瀬おおせ君の聖なる天使の言葉が流れてくる。


 そうだよね。

 子供は宝だから大切にしないと。


「何言っているんだ。現実に商品がないのに嘘の行為を積み重ねるのか? それとも誰もいない教室へ拉致して、二人っきりでいちゃつきながら山手線クイズでもやるか?」


 蛭矢君は例え可愛い少女相手でもぶれないな。

 2次元をこよなく愛するギャルゲーの帝王だけのことはある。

 

「いいや、1つの椅子を巡って椅子取りゲームをした方がいいだろ。椅子の取り合いになり、赤裸々せきららに接触してだな……」

「それはエロいな。むっつり大瀬だけのことはある」

「なっ、俺はな、今は天使の役なんだぜ。批判している場合か?」

「そうかな、英子えいこちゃんの目の前で興奮しながらささやく辺りから十分にエロい」

「だって、石鹸のいい香りがするからしょうがないだろ?」

「お前、本能のままに獲物を追う犬だな。今なら南極基地ワンワンドックのサポート募集のバイトで稼げるぞ」

「どこ情報だよ、それ?」

「バイトするならエロ~いワーク♪」

「いい加減、そのよこしまな考えから離れろよ!」


「──だあ、やかましいですよ!」


 耳元で天使と悪魔……いや、実在する男衆二人がピーチクパーチク言ってるから、頭がどうにかなりそう。


「蛭矢君、焼きそばの支度をして下さい。時短レシピで具材は冷凍庫にあるシーフードミックスでお願いします」

「はっ、英子警視総監どの。速攻で作らせていただきます!」


「それから大瀬君はその間の繋ぎとして何か面白いゲームをして、その子と一緒に遊んであげて下さい」

「分かった。何でもいいんだな……」


 大瀬君が影になった後ろ側から何かを見せつける。


「……その手錠とロープはどこから持ってきましたか?」

「隣のクラスがお化け屋敷をやっているからついでにな。これで幼女をくくいっと縛っておくか?」


 縄を宙で回転させて、何かを掴み取るような仕草をする。


 気分はカウボーイ。


「……くれぐれも犯罪になるような真似はやらないで下さい。由緒正しき学校生活の汚点になりますから」

「分かった。色気無しな野球拳で我慢するぜ」


 そう言って大瀬君は盤上の野球ゲームを思うままに私に見せる。


 それを持ってるなら最初から出してよね。


「さあ、それではお客さん1名様ご来店です♪」


****


 それから、わたちはイケメンなおうじさまからあぷろーちをうけていろいろとあそんだの。


 あんなことやこんなことまで。


 わたちがわらうとおうじさまもわらう。


 よく、せんせいがおとなのおとこにはきよつけてといっていた、『きみのきょうのパンツのいろは?』とかきいてこない。


 ──それから、ほっとけーきじゃなかったけど、おいしいやきそばをたべて、しばらくするとパパとママがやってきた。


「やれやれ、こんな所にいたか。必死に探したぞ」

「お姉さん、お兄さん方、ご親切にどうもありがとうございます」

 

 ママがおねえさんたちにぺこぺこしてる。

 わたち、わるいことしたかな。


「パパ、ママ。しんぱいかけてごめんなさい」

「いいさ。パパたちも悪かった。今度は迷わないようにこうするよ」


 わたちのみぎにママ、ひだりにパパがならんで、わたちのてをにぎる。


「これならもうはぐれないだろ」

「うん、パパもママもだいしゅき♪」


****


「ぐおおお! 素敵な親子愛だったー!」

 

 蛭矢君が号泣ごうきゅうし、光の反射で虹が映っている。


「蛭矢は本当、情にもろいよな」

「僕の心はな、ソフトクリームのように溶けやすいのさ」


「──だったらさ、帰りにそれ食べて帰らない?」


 そこへ、ひょこっと金髪娘が現れる。


「あっ、美伊南、今までどこに言ってたんだ!」

「文化祭とかいう楽園♪」

「もうお前は島流しにして永久追放だ!」

「きゃー、よってたかって美伊南をはずかしめにするのねー!」

「違う、この妄想爆裂娘が!!」



第17話、おしまい。


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